「進撃の巨人」が多くの共感を呼ぶ理由について、京都大学大学院教授の藤井聡さん(46)は次のように分析する。

「勘のいい人たちは気づいているんですよ。私たちが暮らす平常生活のすぐ外側に、すべてを破壊する危機が存在していることを。それは経済問題かもしれないし、災害問題かもしれない。あるいは、学校で起きているイジメ問題かもしれない。重要なことは、現実の薄皮一枚を隔てた向こうに破滅が存在していること、にもかかわらず“思考停止”したままの大人がいるということなんです」

 第1話。エレンが住む街の大人たちは、100年の平和を享受していた。門兵たちは酒を飲み、危機意識のなさを叫ぶエレンの声を笑った。

「現在の日本にも、エレンと同じように、“思考停止”したままの大人にいら立っている人が大勢いるわけです」

 社会問題は山積みのまま、将来への不安は増すばかりなのに、旧態依然とした枠組みの中で、安心と安全を疑わない大人たち。不安や迷いを訴える若者たちの声は届かない。藤井さんは言う。

「誰も聞いてくれなければ、普通は泣き寝入りするしかありません。しかし、エレンは屈せず、巨人を相手に彼らを『駆逐してやる!!』と決意する。その姿が、現実に危機感を持つ人たちの心に響くのでしょう」

AERA 2015年8月3日号より抜粋