アクティブリンク社長藤本弘道さん(44)パワーローダー「MS―02」を装着した藤本さん。用途にあわせてパワーアシストスーツの形状を変えるのは、ジオン的な考え方という。「人類の覚醒を目指しています」(撮影/高井正彦)
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アクティブリンク社長
藤本弘道
さん(44)
パワーローダー「MS―02」を装着した藤本さん。用途にあわせてパワーアシストスーツの形状を変えるのは、ジオン的な考え方という。「人類の覚醒を目指しています」(撮影/高井正彦)
量産に乗り出すアシストスーツ「AWN―03」。原理は、電動アシスト自転車と同じ(撮影/高井正彦)
量産に乗り出すアシストスーツ「AWN―03」。原理は、電動アシスト自転車と同じ(撮影/高井正彦)

 アニメ「機動戦士ガンダム」をリアルタイムで見ていた子供たちは、今40代から50代前半。戦争の悲哀や人間ドラマを描いたあの作品から、ベンチャー精神を学んだビジネスマンがいる。

 高齢化が進むなか、力仕事を助ける「パワーアシストスーツ」を開発して社会を変えようと燃えている男が、奈良にいる。

「今までにない社会、新しい社会をつくりたい、革新させたいという思いが根本にあります」

 藤本弘道(44)。ロボット関連ベンチャー、アクティブリンク(奈良市)の社長だ。大阪大学で原子力工学を学び、パナソニックに入社。小型モーター用の材料開発をしていた藤本は、社内ベンチャー制度に応募して、2003年にアクティブリンクを設立した。

 パワーアシストスーツとは、人間が体に装着して筋力を補うロボットのこと。農業や物流、介護など、人手不足が深刻な現場での活用が期待される。将来、市場が急拡大するとの試算もあり、メーカー各社は開発に力を入れている。

 ただ、藤本がパワーアシストスーツの世界に足を踏み入れたのは、ロボットを作りたかったから、というわけではない。

「私がやりたかったのは、会社経営。経営者になりたかった」

 藤本が少年時代に大きな影響を受けたアニメがある。1979年からテレビ放映された「機動戦士ガンダム」だ。

 はじめてガンダムを見たのは小学生の頃。それまでのロボットアニメの“常識”を、ものの見事に打ち破っていた。勧善懲悪を超え、戦争の不条理を描いたストーリー。主人公のアムロ・レイ、宿敵のシャア・アズナブル……。個性豊かな登場人物が、枝葉のあるストーリーを形づくっていた。

 とりわけ心を奪われたのは、登場人物の一人、ギレン・ザビという男だった。地球連邦軍に戦いを挑むジオン軍の総帥。IQ240の天才で、沈着冷静。物語の中で圧倒的な存在感を見せていた。

「彼は自分で工夫し、自分の頭で道を切り開いていく。しかも、革新を目指す。そうしたところが、すごくベンチャー的。私もベンチャーの社長として、大企業に対して戦いを挑んでいきたいと思ったんです」

 いったん大企業であるパナソニックに勤めたのは、当時はまだベンチャーの“壁”が高く感じていたから。社内ベンチャーの公募があった時、藤本は将来の労働力不足に着目し、それを補うパワーアシストスーツの開発を考えた。同社にはすでに20近くの社内ベンチャーがあったが、その中でも最年少での設立になったという。

 アクティブリンクの社員数は現在15人。製品は、人の動きを手助けする「アシストスーツ」と、能力を拡張する「パワーローダー」の二つのラインアップがある。両腕で100キロの重量物を持ち上げられるようにするパワーローダーの試作機を09年に発表。

 10年には、脚部をアシストするパワードスーツを開発した。

AERA 2015年7月27日号より抜粋