「母として、ボスとして、現実と毎日向き合っています」

 子育てしながら働く女性が多いフランスだが、彼女の業界は違う。同僚には、同性愛者の男性や独身で子どもがいない女性が多い。

「子どもとは縁のない業界なので、『ごめん、子どもの発表会だから』が全く通用しない。私は仕事仲間には一切子どもの話をしません。だから彼らに愛されているのかしら?(笑)」

 取材前日まで数日間、出張でカンヌ国際映画祭に出かけていた。仕事柄、出張もよくある。20年前から、ベビーシッターや保育園のブッキングに悩まされてきた。最初の頃は収入の大半が育児経費に吸い取られた。

「大変だったけど、こんな働くママだからこそ、子どもたちはマイペースで育ち、責任感がついたのだと自負しています」

 そんな彼女が妥協しない点は、ずばり「暮らす場所」だ。あえてパリの中心地から少し離れた13区に住む。環境がよく裕福な層が暮らすエリアだという。

「会社の近所に引っ越しをすれば便利でしょうが、子どものバランスの取れた友人関係と学校環境を変えたくはありません」

AERA  2015年6月15日号より抜粋