フランス好きというだけで、おしゃれで知的なイメージに。パリに心奪われる日本女性は今も昔も後を絶たない(撮影/写真部・堀内慶太郎)
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フランス好きというだけで、おしゃれで知的なイメージに。パリに心奪われる日本女性は今も昔も後を絶たない(撮影/写真部・堀内慶太郎)

 ファッション、お菓子、ワインにコスメ。パリには女性が夢中になるものがあふれているが、なぜかとりわけ日本女性が熱い。パリの何が、人々を魅了するのか。

 昨年10月に出版された『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)は、異例の60万部を突破。当初の3万部くらいではという編集部の予想をはるかに超えた。

 内容は、パリに留学したアメリカ人の女子学生が、ホームステイ先の裕福な家庭で学んだ、上質で洗練された「シック」な生活スタイルを紹介するというもの。彼女のホームステイ先のマダムは、シャツやパンツなどベーシックな服を10着しか持たず、限られた服を工夫して着回している。

 この本が提言する「ものを大切に使う」「いつも食事を楽しむ」といった暮らしを大切にする視点は、日本文化の美意識にも通じるところがある。編集部には「昔の日本人も、ものを大切にしていました」といった感想も寄せられたそうで、世界中で翻訳された本書が一番うけているのは、実は日本だという。

 では、パリジェンヌは本当にシックなのか。「それはパリの西側に住む高所得者たちだけであって、全体でみればそうでもない」と上智大学外国語学部教授のミュリエル・ジョリヴェさんは言う。

 リサイクルに対する意識が日本より進んでいたりはするが、ものがあふれるのは万国共通。シックなパリジェンヌとは、多様なフランス人のひとつのジャンルにすぎない。あらゆる情報を集めて美しくあるために努力しているのは、パリジェンヌよりも日本女性のほうだという。それでも、パリへの憧れは止まらない。

 旅行書はもちろん、子育てや、個人主義なパリジェンヌの生き方や働き方、シンプルなファッションなど、パリに関する多様なジャンルの本が出版されている。出産後も子ども中心の生活にはならないフランスらしく、夫婦間の恋愛やセックスを赤裸々に語る本もあれば、熟女のマチュアな魅力を主張するマダム系の本もある。「パリ本」はひとつのジャンルを成す勢いで刊行されており、ここまで多岐にわたって女性に注目される都市は他にない。なぜここまで「パリ」は日本女性の心を掴(つか)むのか。

「私たち日本人は、日頃からものに振り回されている感がある。もっとシンプルに暮らしたいが、何をどうしたらいいかわからない」と「ELLE」日本版の松井朝子さんは言う。

 同誌でもパリ特集は人気だ。フランス人モデルはアンチエイジングなど興味がない。著書で完璧でないパリジェンヌを紹介しているモデルのカロリーヌ・ド・メグレや、すきっ歯がかえってチャーミングなヴァネッサ・パラディなど、個性的な女性たちが活躍している。

 自由気ままなフランス女性たちのふるまいは、まわりに合わせることが美徳とされる日本女性にまぶしく映る。「夫婦間でも恋愛を」「若さだけが女性の価値ではない」といった「パリ本」が主張することは、加齢とともに日本女性が真っ先に諦めさせられてしまうものだ。

AERA 2015年6月15日号より抜粋