「ちょうどこの辺がギャング同士の縄張りの境界線なんだよ」

 現場にいた警官の一人は、慣れた手つきで人混みを押しやりながら言った。ギャングたちにとって、境界線を越えることは死の危険を伴う。

 やじ馬たちは、いつもの景色と言わんばかりに、頭を撃たれた男とその横で泣き叫ぶ若い女を、無表情で取り囲んでいた。

 カリの警察本部内にある監視カメラのオペレーションルームでは、街中のカメラから送られてくる映像に、警官たちが目を光らせていた。責任者は言う。

「監視カメラによって捜査もしやすくなりました。何か起これば、パトロール中の警官と連携して犯人を追い詰めることもできます」

 現在480台の監視カメラが設置されているカリでは、今年末までに1221台が街中で“目”を光らせることになる。

 これは首都ボゴタを抜き、コロンビア一の設置台数だ。プライバシーの問題はないのだろうか。尋ねると、責任者はため息をつきながら言った。

「コロンビアは安全になったなんて言う人もいるけれど、この街の殺人発生率を知っていますか? 世界で9番目です。プライバシーなんて言っている余裕は、私たちにはないんですよ」

AERA 2015年6月8日号より抜粋