なぜか人気の南部鉄瓶。1個20万円の銘柄鉄瓶を前に、安い鉄瓶との効能の違いについて、店員に真剣に質問していた/東京都台東区秋葉原の家電量販店(撮影/写真部・植田真紗美)
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なぜか人気の南部鉄瓶。1個20万円の銘柄鉄瓶を前に、安い鉄瓶との効能の違いについて、店員に真剣に質問していた/東京都台東区秋葉原の家電量販店(撮影/写真部・植田真紗美)

 銀座や秋葉原に行けば、たいてい中国人を見かける。彼らの「爆買い」の「三種の神器」は、温水洗浄便座、炊飯器、保温ボトルとされるが、意外なものも人気を集めている。南部鉄瓶だ。

 南部鉄瓶は岩手県の伝統工芸品。上海万博に巨大鉄瓶が展示され、中国での知名度が上がったという。値段は高いもので数十万円もするが、富裕層を中心に売れている。お湯を沸かすと鉄分が溶け出すから健康にいいとか、沸かしたお湯でいれたお茶は雑味が取れておいしくなるとか、広く信じられているらしい。秋葉原の家電量販店で南部鉄瓶が炊飯器などの隣で売られているさまは、よくよく考えると不思議な光景だ。

 美容フェイスマスクを企画・販売する「グライド・エンタープライズ」の分析によれば、中国人は基本的に製品を店頭で選ばず、事前に「お勉強」したものを指名買いする傾向があるという。さらに「免税で、銀聯カードが使える店」が選ばれる傾向も強い。銀聯は中国のデビットカードで、中国ではクレジットカードより圧倒的に普及している。購入価格は5千円以上で、情報の入手先は主にSNSやウェブだという。

 でも、どうしてこんなに買うのか。『本当は日本が大好きな中国人』(朝日新書)の著者で、ジャーナリストの福島香織さんは、世代的な背景に注目する。

「日本製品を買っている中心は、40歳前後で収入がそれなりに安定し、生活重視の観念を持っている“プチブル層”です。この人々は1980年代の改革開放で日本製がイチオシだった時代に思春期を送り、身をもって日本製品の良さを知っていて、本質的に日本びいき。円安、中国の物価高、免税などの要素が重なって、あこがれの日本製品をいまはお安く買うことができることに興奮しているようです」

 一方、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中公新書ラクレ)の著者で、ジャーナリストの中島恵さんは、こう指摘する。

「ドラッグストアなどの日用品が売れていることが、今回の現象の特徴的なところ。日本人も円高時代にルイ・ヴィトンのバッグなど海外の高級ブランド品を買いに走りましたが、自分用でした。一方、中国人はお土産として周囲に配るために買うことも多く、量が増えている面があります。また、中国人に人気の保温ボトルや冷却ジェルシートは中国でも売られていますが、価格に品質が見合わないと彼らは考えています。経済水準が上がり、何にでもレベルの高いものを求めているのです」

AERA  2015年6月8日号より抜粋