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 現代日本ほど、おもしろく、自由で変化に富んだ左手の音楽を生み出している国はない。欧州の専門家も評価する状況を生んだのは小さな募金だった。

 今年の2月20日、東京オペラシティコンサートホールではピアニストの舘野泉を中心とする「奇跡の左手」コンサートと「舘野泉左手の文庫募金」への寄付を呼びかける記者会見が開催された。2002年に脳出血のためステージ上で倒れた舘野はリハビリを経て、左手だけで演奏活動を再開。その後は多くの作曲家に左手で演奏する曲を委嘱し、世に問うてきた。

 病を克服し、左手で演奏する姿は多くの人に力を与え、新しいファンを開拓したが、そういうとらえられ方だけでは舘野も不本意だろう。なぜなら、聴き手にとっては、それまで知らなかった左手の創造力との出会いとなるからである。

 バッハの名曲「シャコンヌ」(ブラームス編曲)。ヴァイオリン独奏でおなじみの曲が、舘野の手にかかれば、複雑なニュアンスや音の強弱によって、厳しい美しさを生み出す。吉松隆の「タピオラ幻景」シリーズは、舘野が長年暮らすフィンランドの光や風が肌で感じられる。仕事で疲れた夜に聴けば、深い安らぎを感じるはずだ。それらはすべて、左手の5本の指だけで生み出したものだ。

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