パイロットの万年筆「カクノ」。持ちやすい三角グリップなど、初めて万年筆を使う人にもやさしい設計。手頃な価格なので、色ごとに数本持つ人も多い(撮影/写真部・加藤夏子)
パイロットの万年筆「カクノ」。持ちやすい三角グリップなど、初めて万年筆を使う人にもやさしい設計。手頃な価格なので、色ごとに数本持つ人も多い(撮影/写真部・加藤夏子)
左から「キャップレス」(パイロット、1万5千円)、「♯3776センチュリー」(プラチナ万年筆、1万円)、「ソネット パールホワイトPGT」(パーカー、3万円)、「ロメオNo.3」(伊東屋オリジナルブランド ロメオ、2万8千円)、「イプシロン」(アウロラ、1万5千円)、「プロフェッショナルギア」(セーラー万年筆、2万円)、「プレラ 色彩逢い」(パイロット、3500円)、「スーベレーンM600ボルドー」(ペリカン、4万円)。インクは「色彩雫」(パイロット、各1500円)/価格はすべて税抜き(撮影/写真部・加藤夏子、商品提供/K.ITOYA)
左から「キャップレス」(パイロット、1万5千円)、「♯3776センチュリー」(プラチナ万年筆、1万円)、「ソネット パールホワイトPGT」(パーカー、3万円)、「ロメオNo.3」(伊東屋オリジナルブランド ロメオ、2万8千円)、「イプシロン」(アウロラ、1万5千円)、「プロフェッショナルギア」(セーラー万年筆、2万円)、「プレラ 色彩逢い」(パイロット、3500円)、「スーベレーンM600ボルドー」(ペリカン、4万円)。インクは「色彩雫」(パイロット、各1500円)/価格はすべて税抜き(撮影/写真部・加藤夏子、商品提供/K.ITOYA)

 万年筆といえば、高価で、気取っていて、手に取りにくい。そんなイメージを払拭する万年筆が登場し、「復権」の兆しをみせている。

 デジタル文字が日常化した。だからこそ、というべきか。今年1月、ある異変が文具業界で起きた。一つの商品につき年間数万本が売れたらいいほうだった万年筆の世界で、パイロットコーポレーションが2013年10月に発売した万年筆「カクノ」が、100万本を突破するメガヒット商品になったのだ。

 パイロットによると、そもそもは「子ども向け」に売り出したのだという。ところが、ふたを開けてみると、万年筆ビギナーの大人にも大好評。日本での万年筆の人気はバブル景気を機に下火になったため、その後に大人になった30~40代にもビギナーは多い。また、その世代が子どもに買い与えるケースも少なくない。1本千円(税抜き)という価格や、ペン先を顔に見立てたキュートでカラフルなデザインで、若い女性からの熱い支持も受けている。

 文具専門店「K.Itoya」(東京・銀座)の万年筆売り場では、カクノのヒット以来、客層に変化が起きているという。それまで高級万年筆を買い求めるコレクター系の年配客が多かったが、初心者向けのカクノの次に使う「2本目」万年筆を買い求めようと、若い人の姿が目立つようになった。

 伊東屋の万年筆バイヤー、平石康一さんは、売り場で「字がうまく書ける万年筆はどれですか?」と聞かれることが多くなったという。デジタル時代になっても、ここぞというときに気持ちを伝えるには、やっぱり手書きの手紙やカードが一番。ただ、字を書くのは苦手という人は多い。そんな人に平石さんは、こう言って万年筆を薦める。

「万年筆なら、どんなにクセのある文字も味わいに変えて、書く人のキャラクターを出しやすい。かつては持っているだけでステータスだった万年筆ですが、今はその文字の特性にも注目が集まっています」

AERA 2015年5月25日号より抜粋