ふだんは平穏な生活のありがたさを意識することはない。だが、私たちはいつも人生の「明」と「暗」の境界を歩いている(撮影/写真部・東川哲也)
ふだんは平穏な生活のありがたさを意識することはない。だが、私たちはいつも人生の「明」と「暗」の境界を歩いている(撮影/写真部・東川哲也)

 決して低くはない、日本の離婚率。離婚はその後の生活、特に経済面に変化を与える大きな転機でもある。その現実に直面したとき、どう向き合えばいいのか。

 2度目の不倫がバレた夫は、Aさん(41)に「後悔は嫌。自由にさせて」と言い放った。同居していた夫の両親も、息子を責めるでもなく「悔いのないようにすればいい」。娘は1歳になったばかり。こんな家で子育てはできない、と離婚を決意した。ただ、頼れるものは何もなかった。NPO職員の仕事は結婚を機に辞め、出産後は専業主婦。夫の手取り19万円では生活が苦しく、貯金はゼロ。実家で一人暮らしの母は高齢で病気がち。同居は考えられなかった。

 家探しを始めたが、不動産業者は冷たかった。唯一見つかったのは「敷金、礼金、4カ月分の家賃合わせて100万円を前払い」が条件の物件。帰りの車を運転中、涙があふれた。反対車線のトラックが目に入り、ふっと引き寄せられそうになった。

「私が死んだら、娘は夫の家に託される。それだけは絶対に許せないと踏みとどまりました」

 100万円は夫と不倫相手に請求することにした。離婚調停で夫はその支払いと、月々3万円の養育費も約束した。

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