illustration/神谷幸宏
illustration/神谷幸宏

急増する特殊詐欺。その背景には、家庭にも社会にも居場所がない子どもたちのつながりがあった――。『老人喰い』(ちくま新書)で話題の著者が書く。(ルポライター・鈴木大介)

 2014年の年間総被害額が550億円を超えた、いわゆる振り込め詐欺などの特殊詐欺犯罪。触法行為・犯罪に手を染める加害者側の少年少女の取材を続ける中で、詐欺の加害者取材もこなしてきたが、そこで20代を中心とする現場プレーヤー(被害者に直接電話をかける架電要員=カケ子)に共通する証言が、詐欺でターゲットとする高齢者が「何でこんなにも払える金を持っているんだろう」と驚愕したという経験だ。

 その驚きはそのまま、詐欺組織側がプレーヤーに行う「ふんだんに金を持っている高齢者から多少の金を奪うことは最悪の犯罪ではない」という洗脳教育の正当化につながり、彼らは罪悪感どころか半ば義侠心をもって詐欺に加担するようになる。

 この犯罪を「再分配」として肯定することはとてもできないが、それでもこの犯罪が横行する背景に現代日本の世代間格差があるということは否定できない。なぜなら取材してきた若き詐欺加害者たちが、幼い頃「子どもの貧困」の当事者だったケースが非常に多かったからだ。

 彼らの根底にあるのは、貧しかった自らの生い立ちと、長じてからも努力が成功に決して結びつかないという強い閉塞感。例えばこんなケースだ。

●事例・ワンコイン児童

 現在19歳だというM君は、最近詐欺のリクルーター(人材斡旋者)をしている先輩から、誘いを受けている。日当の出る研修を受け、使い物になるようならば「月給50万円保証+歩合(詐欺の成功額の15%)」をもらえるプレーヤーに。この候補から外されれば「日給5万円保証+歩合(詐欺の成功額の3%)」のウケ子(集金役)になるという条件。既に引ったくりで少年院を経験し、退院から1年経って保護観察も取れた現在は、建築の型枠職人をやりつつ、仲間内で建築系工具や自動車などの窃盗の「バイト」をしているというM君。その生い立ちは、「ワンコイン児童」だった。

 M君には父親の記憶はない。一人っ子で、小学校時代は母親とアパートでの2人暮らし。毎日深夜に帰る母親は自炊を一切しなかった。M君は小学2年生の頃から、毎日母親からもらう500円玉1枚で食いつないだ。

 ワンコインの夕食代を使って食べていたのは、コンビニの肉まんや駄菓子。夜遅くまでゲームをするかテレビを見ているため、朝に起きられず毎日遅刻で、給食を食べるために学校に行くという生活。500円はなるべく使わないで、貯めた金でゲームソフトを買っていたために、年じゅう腹を空かせていた。母親が不在がちであるゆえに学用品なども揃わないことがあり、体操服や書道道具もなかった。書道のある日は学校をサボった。

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