アレッポは、その極めて複雑な隘路(あいろ)をそぞろ歩くのが、街の楽しみ方でもある。曲がりくねった細い路地を抜けると、突然視界が開け、見上げるような石積みの建造物が出現する。かの英雄サラディンが居城としたことで知られる難攻不落の「アレッポ城」である。

 歩いていて気づくのは、軒下にしばしば描かれている四角くて黒い箱の絵だ。その箱はカーバ神殿を表し、その家が「ハッジ」であることを意味する。ハッジはイスラムの五行のひとつ「メッカ巡礼」のことで、成し遂げた人もハッジと呼ばれて尊敬される。交通手段が未発達だった時代には、ハッジは人生に一度の大旅行であった。

 そんなアレッポの市街地は現在、政府軍と反政府軍双方に占拠され、激しい戦闘が続く。政府軍は「樽爆弾」と呼ばれる、ドラム缶に可燃物や金属片などを詰めた爆弾を、無差別に投下。火災によって旧市街の多数の店舗、住宅が焼失した。衛星画像によれば、多くの市街地が破壊され、更地になっていることがわかる。

AERA 2015年5月18日号より抜粋