ソウルの繁華街での万引き容疑で、埼玉県内の私立高校サッカー部員23人が検挙された。部活で育んだ仲間意識が、負の連鎖を生んだのか――。

「あの瞬間に戻れるなら、戻ってやり直したい」

 自宅謹慎中のある生徒は、反省文にこう書きつづった。

 3月27日、韓国・ソウル。恒例となった4泊5日の強化遠征も最終日となり、サッカー部員たちには帰国前の自由時間が与えられた。立ち寄ったのは、ソウル有数の繁華街・東大門のショッピングモール。ここで、「あの瞬間」は訪れる。

 部員の誰かが雑然と商品が並ぶ無人の店舗で万引き。すると、「俺も」「俺も」と悪事は連鎖した。防犯カメラには高級ブランドのコピーとみられる財布などを盗むジャージー姿の部員がはっきりと映っており、遠征に参加した37選手のうち、新3年生の23人が万引きを認めた。

 学校側は盗んだ73点の代金約26万円を支払って店側と示談したが、韓国警察当局は犯行を重くみて彼らを万引きの疑いで書類送検すると発表。副校長はこう謝罪した。

「韓国の皆さま、日本国民にご迷惑をお掛けし、申し訳なく思っております」

 大胆な手口から、常習性を指摘する声もあるが、学校側はこれを否定した。だとしたらあのとき、サッカー少年たちに何が起こったのだろう。

 万引きは一般に、「ハードルの低い犯罪」と言われている。しかし、NPO法人全国万引犯罪防止機構(万防機構)が青少年を対象に行っている意識調査の最新版では、小中高生の9割以上が万引きは「絶対にやってはいけないこと」と答えている。

 調査では、万引きの誘いを受けたときに「はっきり断る」と答えた高校生は75%を超えた。「あの瞬間」に、悪いことを悪いと思えない“村社会”的な集団心理が働いた可能性が高い。万引き犯の心理分析を続けてきた香川大学の大久保智生准教授は、中高生の万引きの特徴について、仲間同士のコミュニティーにおける「規範」が社会通念を超越してしまう点にある、と指摘した。

「悪いことだと理解していても、集団のメカニズムが働き、やらざるを得ない状況だったのだろう。部活で養ったチームワークが、罪悪感を『中和化』する悪い方向に働くこともあるのです。今回は、店員が少なく雑然とし、棚が高くて、死角が多い。まさに、魔が差しやすい店だったことも要因だと思います」

AERA 2015年4月27日号より抜粋