ある会場で、佐々木さんが100人を前にウイスキーセミナーを行っていた。日本に3人しかいない「マスター・オブ・ウイスキー」の資格を持つ佐々木さんの日常だ。

「モルトとブレンデッドの香りの違いは…」

 そう言って聴衆の表情を見ながら話す。原稿は持たない。聴衆の「うなずき具合」によって話を変える。うなずく人が多ければ、より専門的な内容を話す。そのタイミングまでも「何となくわかる」と言う。「試合で戦況を読んだり、流れを変えたりする『臨機応変力』が養われたのでしょう」と佐々木さん。以前、上司だった岡田浩幸大阪支社長は、「トップアスリートだった経験からでしょうか、覚悟を決めて始めたことはくじけず、極める性格ですね」と評価する。

 ただ、順調なことばかりではない。33歳で選手を引退し、営業職に就いたが、結果が出なかった。精神的にまいっていた。そんなときに出合ったのが、ウイスキー。奥深さに魅せられた。

「前例のないウイスキーのスペシャリストに挑戦しようと決めました。なぜか絶対にできるという根拠のない自信がありました」(佐々木さん)

 自分の能力に勝手に限界を作らない、というのも、体育会学生の共通点かもしれない。

AERA 2015年4月27日号より抜粋