生物学者福岡伸一ふくおか・しんいち/55歳。青山学院大学総合文化政策学部教授。米ロックフェラー大学客員教授。専門は分子生物学(撮影/写真部・東川哲也)
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生物学者
福岡伸一

ふくおか・しんいち/55歳。青山学院大学総合文化政策学部教授。米ロックフェラー大学客員教授。専門は分子生物学(撮影/写真部・東川哲也)

 文系と理系の間の「壁」は、世界共通の課題。生物学者・福岡伸一さんは、そもそも大学修了時点で文系出身、理系出身を名乗ることにも懐疑的だ。

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 大学修了程度で学べることはたかが知れている。日本の現行の文系・理系カリキュラムのもとでは、片方の領域が欠落しているわけなので、それは文系出身、理系出身と呼ぶべきものではなく、いずれかの領域が決定的に勉強不足の状態のまま社会に出ているということを表明しているにすぎない。「私は根っからの文系なので」「理系なので」という言い訳は、単に勉強不足であることを露呈しているだけである。

 中学・高校レベルの数学や物理の成績や好悪だけで、若い知性の芽が摘み取られるのは不幸なことだ。私の専門分野の分子生物学では、特殊な領域をのぞいては高度な数学や物理の知識がどうしても必要な局面はそんなにない。むしろトポロジカルなセンス(いま細胞の断面を見ているとして、どの方向から見ているか、全体はどうなっているか、パッと把握できる空間的な把握能力)が求められる局面が多い。これはどちらかといえば、いわゆる文系的あるいは芸術系的センスかもしれない。

 こういったセンスの良しあしは、高校の進路分けでは到底ひっかかってこない。むしろ好きな分野にいくらでも進めること、あとになっても進路変更できる自由度を保証することが教育制度に求められると思われる。

 そして専門家も絶えず、自分の専門以外の分野を参照する努力が必要だ。

AERA 2015年4月13日号より抜粋