新宿の街角に毎朝6時半から立つ。生活は夜型から朝型に変えた。街頭演説にも区議ごとの「縄張り」があることを知って驚いた(撮影/編集部・野嶋剛)
<br />
新宿の街角に毎朝6時半から立つ。生活は夜型から朝型に変えた。街頭演説にも区議ごとの「縄張り」があることを知って驚いた(撮影/編集部・野嶋剛)

 中国から留学し、日本に暮らして27年。日本国籍を取った新宿の夜の案内人が統一地方選で区議に挑む。外国出身者票を開拓できるか。

 中国・湖南省出身の李小牧さんは27年間、中国で生きた。次の27年間は日本で暮らした。そんな人生の節目に勝負に出た。4月26日投開票の新宿区議会議員選挙(定数38)に挑戦する。民主選挙が基本的にまだ実施されていない中国でも注目されている。

「私の『中国夢』を叶えます」

 習近平(シーチンピン)国家主席の政策「中国夢」にひっかけ、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」でも3月1日に出馬を宣言した。リツイートにあたる「転発」は714万回という驚異的な数字を稼ぎ出した。李さんは言う。

「風俗の町で20 年間働き、本も書ける、店もやれる、選挙にも出られる。こんな日本の素晴らしさを中国の人々にも知ってもらえればうれしい」

 若い頃はダンサーを目指した。父は文化大革命で逮捕された。職を転々とした末に1988年に来日。服飾を学びながら、歌舞伎町の路上で中国や台湾、香港からの観光客を飲食店や風俗店に案内するアルバイトを始めると、明るく物おじしない社交的な性格もあって多くの店から頼りにされ、本業になった。「歌舞伎町案内人」と自称し、体験をまとめた本も出版。地元・湖南料理の店をプロデュースして人気店にするなど、多彩な人生を送ってきた。

 李さんは「ニューズウィーク日本版」にコラムを持つ。昨年2月、震災の取材で福島に行ったことで選挙に関心を抱く。「性事(せいじ)ではなく、政治もやりたい」。そうコラムで書くと、当時民主党代表だった海江田万里氏の事務所から電話が入った。中国語が得意な海江田氏は、李さんのコラムの読者だった。新宿が自身の選挙区でもある海江田氏は言う。

「もし選挙に出たいなら、まず日本人になってから、とアドバイスしました。彼が掲げる新宿の国際化や共生社会という政策は党の主張にも合致します」

 昨年6月に国籍取得を申請し、今年2月4日に官報に記載され、ギリギリ立候補に間に合った。公認をもらう予定だった民主党は推薦にとどめた。李さんの過去の仕事や中国出身への懸念が党内で出たと見られる。はたから見るとはしごを外された感もあるが、李さんはあっけらかんとしている。

「公認をもらうか迷っていたぐらいですから気にしていません。私は自由人。『歌舞伎町公認候補』として日本の民主主義に関われることを楽しみます」

AERA 2015年3月30日号より抜粋