この春、新しいスーツを仕立ててもらう。体にフィットしたジャケットは心地よい。管理職というポジションは自分にフィットするだろうか(撮影/写真部・堀内慶太郎、協力/ニュー&吉田スーツ[東京・虎ノ門])
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この春、新しいスーツを仕立ててもらう。体にフィットしたジャケットは心地よい。管理職というポジションは自分にフィットするだろうか(撮影/写真部・堀内慶太郎、協力/ニュー&吉田スーツ[東京・虎ノ門])

 春の異動で管理職に就いたという人も多いのでは。マネジメントに必要な能力とは何なのか、専門家らに聞いた。

 メーカー勤務の男性Aさん(40代)は、管理職になって5年余りが経つ。大手法人を担当する営業部門で、30代が中心の12人を率いる。そんなAさんには悩みがある。上から口酸っぱく言われる。

「もうちょっと、どんと部下に任せられないのか」

 なかなかできない。顧客への納品や社外での打ち合わせに、つい出ていってしまうのだ。Aさんは、営業一筋でここまできた。飲み会で顧客との濃密な関係を築き営業に生かす。自分の結婚式にも顧客を呼んだ。「人の倍、努力する」が信条で、いまどき「モーレツ社員」が自己評価。そんなことだから現場好きがいまだやめられない。

 以前、こんなことがあった。商品を納品した取引先からクレームが入った。話はこじれ、部下を集めて対策会議を開いたが、Aさんは反射的にこう口を開いていたという。

「よし、もう任せられないから、この件はおれが担当をやる」

 謝罪や説明など、現場での対応を自ら買って出た。管理職として最後に出ていくのではなく、現場の細々した連絡まで自分で動いた。任せきれないのはなぜなのか。

『はじめての課長の教科書』の著者で、人材育成事業などを手がける「BOLBOP」CEOの酒井穣さんは、サッカーに例えてこう言う。

「管理職は、チームメートに点を取らせるディフェンダーであり、ゴールキーパーなんです。自ら率先してゴールを狙ってしまってはいけない」

 手柄を部下に取らせるポジションだと心得なければならない。前線でゴールを狙う部下たちがスムーズに攻められるように、最後尾からコーチングをする。チームが苦境に陥れば、最後に責任をとるのが役目だ。部下にパスを送るときは、少しだけ難しいボールでもいい。

「4月に、何か新しいサービスを始めたい」と、要求のディテールをぼかすなど、あえて粗い指示を出してみるのも「任せる」ためには有効だ。部下は指示があいまいなので自分で考えるしかなく、背伸びをしてでも追いついてこようとするだろう。

AERA 2015年4月6日号より抜粋