暗闇の中、咒師松明を銭湯に若狭井へ向かう。光、音、熱が聴聞者の五感を刺激する (c)朝日新聞社 @@写禁
<br />
暗闇の中、咒師松明を銭湯に若狭井へ向かう。光、音、熱が聴聞者の五感を刺激する (c)朝日新聞社 @@写禁
お水取りでは、女性が聴聞できるのは格子越しの「局」から。ここから堂内の行の様子をうかがう。「香水給り」の時には格子越しに手を差し出す(撮影/桑原英文)
<br />
お水取りでは、女性が聴聞できるのは格子越しの「局」から。ここから堂内の行の様子をうかがう。「香水給り」の時には格子越しに手を差し出す(撮影/桑原英文)

 1260年以上、一度も途絶えることなく続いてきたという、東大寺の「お水取り」。厳寒の奈良で行われる法会に引かれて、毎年のように訪れる女性たちも増えている。

 3月とはいえ、震えるような寒さの東大寺二月堂(奈良市)。深夜の暗闇の中に、灯火の光が浮かび上がり、練行衆(れんぎょうしゅう・修行僧)の姿が影となって動いていく。声明(しょうみょう)が始まると、堂内の空気は振動で震え、寒さをこらえて待っていた聴聞の人々を包むように響く。

「幕に映る影から、内側での行(ぎょう)を想像したり、声明や物音に耳を澄ませたりしていると、感覚がするどくなる気がします。だんだんとトランス状態になるような(笑)。日ごろの会社や家でのストレスも消え、非日常の中で、自分の心まで清められていく感じがするんです」と話すのは、東京在住の会社員えりさん(52)。古都・奈良に春の訪れを告げる行事として知られる東大寺・修二会(しゅにえ)(旧暦2月に行われる法会(ほうえ)=仏法行事、通称「お水取り」)を毎年聴聞するようになって10年以上になる。

 お水取りといえば、火の粉を振りまきながら運ばれる「お松明(たいまつ)」が有名だが、堂内で行われる深夜の行を聴聞する女性も増えているのだ。

「お水取りは宗教儀式ではありますが、パフォーマンスとしても、とても優れていると思います」(えりさん)

 お水取りは春迎えの法会であり、世界平和、人々の幸福を願うもの。2月中旬から精進潔斎(しょうじんけっさい)が始まり、3月1日から2週間、二月堂での本行が行われる。その間、正午から夜半過ぎまで行が続くのだが、闇の中に松明や灯火といった光が使われ、声明、五体投地、所作によって起こる足音などが響く。燃える杉の葉や香(こう)のかおり、皮膚に感じる炎の熱などが五感を呼び覚ますのだ。

「夜、修行僧の方々が上堂するときの様子は、沈黙の中を松明の光や匂いが先触れとなって描かれる、絵巻物を見るように美しいんです」と話すのは、東大寺にほど近い場所に住む永本啓子さん。

 京都から毎年通う岩井敏子さんもこう話す。

「最初はお松明を見るだけだったのですが、局(つぼね・お堂の周囲の畳敷きの部分)にあがってうかがう声明や錫杖(しゃくじょう)の鈴の音などが素晴らしくて。達陀(だったん)などの行も印象的ですし、知れば知るほど、奥が深いんです」

AERA 2015年3月16日号より抜粋