浜松市立瑞穂小学校の授業。数人ごとのグループに分かれた楽器の練習で、児童たちが互いに相談しながら進める姿に、マレーシアからの一行は感心していた(撮影/編集部・鳴澤大)
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浜松市立瑞穂小学校の授業。数人ごとのグループに分かれた楽器の練習で、児童たちが互いに相談しながら進める姿に、マレーシアからの一行は感心していた(撮影/編集部・鳴澤大)

 日本の教育が、アジアで注目を集めている。浜松市には、日本の音楽の授業を視察すべくマレーシアの人々がやってきた。仕掛け人は、あの大手企業だ。

 楽器メーカーが集中する静岡県浜松市。昨秋、スカーフで頭を覆った女性たちや子どもたちを含む一行が、浜松駅に降り立った。日本の小学校の音楽授業や部活の演奏を視察しようとマレーシアから来た教育関係者だ。

「なんて規律正しいのか」
 
 16人の一行が訪れたのは同市立瑞穂小学校。金管バンド部は全国大会にも出場する。音楽教室では4年生が授業の真っ最中。リコーダーの練習の様子を教室の後ろから眺めていたマレーシア人たちが目を細め始めた。SKクラナジャヤ1小学校の音楽教師、ヌールヒダユ・ゴッさん(46)は言う。

「マレーシアは音楽教室がない学校も多い。授業も生徒は聞くだけ。日本は双方向で授業を進め、子ども同士でも教え合う。戻ったらぜひやってみたい」

 学校の音楽授業などを視察するこのミッション、実は仕掛け人がいる。浜松に本社を置く楽器の世界最大手ヤマハだ。

「楽器は農耕型ビジネスですから」と同社関係者。音楽に親しんでもらい、愛好家を増やすことが楽器販売にもつながる。

 マレーシアの小学校への「種まき」を始めたのは2013年。同国の公立学校では一般的に、正規授業とは別に、「絵画」などの選択授業がある。ヤマハは首都クアラルンプールの南西、ペタリンジャヤ市に机上型キーボードを使った選択授業を提案。試験的に2校が採用して取り組んできた。

 ヤマハが有料で自前の講師を学校側に派遣し、レッスンを行う。児童には一人一人にキーボードを貸し出す。この取り組みが契機となり、今回の日本での視察につながった。

 なぜ今なのか。背景にあるのは所得の「中間層」の拡大だ。マレーシアは、国内総生産(GDP)成長率が5%前後と安定的に推移し、国民全体の所得が向上し、人口も増加。ここ数年は、音楽教室にこれまで少なかったマレー系の子どもたちの姿も目立ち始めた。いよいよ公立学校にアプローチする時機が来た、というわけだ。

 ペタリンジャヤ市の教育省国際担当のイルワン・ザハルディンさん(30)は言う。

「授業を試してきたが非常にいい」

AERA 2015年3月23日号より抜粋