100キロなどフルマラソン以上の距離を走る「ウルトラマラソン」の世界チャンピオンの経歴を持つ井上真悟さん主催の「コアランニングスクール」の体幹トレーニングで、参加者から「きつい」と声があがる上級編の「ドラゴンフライ」/東京都多摩市(撮影/今祥雄)
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100キロなどフルマラソン以上の距離を走る「ウルトラマラソン」の世界チャンピオンの経歴を持つ井上真悟さん主催の「コアランニングスクール」の体幹トレーニングで、参加者から「きつい」と声があがる上級編の「ドラゴンフライ」/東京都多摩市(撮影/今祥雄)

 箱根駅伝優勝の青山学院大学も取り入れ、「体幹トレーニング」。インテルの長友佑都選手が関連書籍を出すなど、すっかり話題のトレーニング法だ。でも、実際に鍛えるとどう効果があるのだろうか?専門家に聞いた。

 そもそも「体幹」ってどこのこと?体幹を鍛えることでいったい何が変わるの?スローペースの動作で効率よく筋肉をつける「スロトレ」でおなじみの東京大学大学院総合文化研究科教授の石井直方さんに聞いた。

「体幹とは解剖学的には頭と四肢を除いた胴体のことを言います。その中で体を支えるために重要なのが肋骨(ろっこつ)の下から骨盤までの間にあり、広く『体幹筋』と呼ばれる筋肉です」

 体幹筋は内臓を包む腹腔(ふくくう)を支える筋肉で、内臓が詰まった箱のような役目を果たす。また、上半身と下半身をつなぐジョイントの役目も果たしている。

 そのため、体幹筋が衰えてくると背筋をまっすぐ保つことができず、背になってしまう。ランニングの場面では、下半身と上半身の軸がぶれるため、足を動かすことでお尻と太腿の筋肉が生み出したエネルギーをロスすることにもなる。

「理想的なランニング姿勢は、ロコモーターである下肢が生み出したエネルギーを効率よく利用しながら、パッセンジャーである上半身がグラグラせずにスムーズに運ばれることです。そのためには足を動かすことで生じた骨盤の回旋を体幹筋が調整し、上半身をまっすぐ保つことが必須です。ところが、体幹筋が弱くなると、骨盤の回旋に上半身が振り回され、頭がグラグラし、エネルギーロスが生まれてしまうのです」(石井さん)

 体幹筋は瞬発力を生み出す筋肉ではなく、じわじわと力を発揮する筋肉。そのため体幹筋を鍛えても、すぐにスピードアップするわけではない。しかし、鍛えると体の軸がぶれなくなり、エネルギーロスが防げる。その結果、速いスピードで走れるようになるのだという。

 体幹にまつわる誤解について、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんはこう言う。

「ブームだからといってみんなが体幹トレーニングから入るっていうのはおかしな話。体幹を鍛えたからといって、基礎筋力、つまり人間が本来生命を維持していくのに必要な筋力や体力はつくれません」

 これまであまり運動してこなかった人であれば、まずは下半身の筋力トレーニングから始めて、基礎体力、筋力を取り戻すことが先決。それができたうえでスポーツのパフォーマンスを上げたい、けがの予防をしたい人の味方になってくれるのが体幹トレーニングなのだ。

AERA  2015年2月23日号より抜粋