極東まで延ばしたパイプラインにサインするロシアのプーチン首相(当時)。ロ政府は天然ガスの需要が減る欧州から、アジア重視にシフトしている/2011年、ウラジオストク (c)朝日新聞社 @@写禁
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極東まで延ばしたパイプラインにサインするロシアのプーチン首相(当時)。ロ政府は天然ガスの需要が減る欧州から、アジア重視にシフトしている/2011年、ウラジオストク (c)朝日新聞社 @@写禁

 サハリンから天然ガスをパイプラインで輸入する構想が、現実味を帯びてきた。反対勢力だった電力会社が、賛成派になったというのだ。背景に何があるのか。

 昨年10月下旬、新潟市であったシンポジウム「日露エネルギー・環境対話」には、日ロ両国の政府代表やエネルギーの専門家、業界関係者など約200人が参加した。終了後、会場隣のホテルであった交流会で、細身のロシア人が日本側の参加者に近寄り、こう話しかけてきた。

「茨城とサハリンの間を結ぶ天然ガスパイプライン構想に興味があるのですが」

 この人物は、ロシアの天然ガス最大手「ガスプロム」の幹部。話しかけられた日本側参加者は驚いた。なぜなら、このパイプライン構想にロシア側が初めて関心を見せたからだ。

 プロジェクトの旗振り役は、東京ガスや新日鉄住金エンジニアリングを中心とする企業グループ。2012年から動き出し、すでに調査もしている。

 なぜ、パイプラインが必要なのか。プロジェクト関係者は、こう説明する。

「日本は船によるLNG(液化天然ガス)の輸入に頼っていますが、LNGが高騰したときに価格交渉カードを持っていなくていいのか、という話です。輸入距離が3千キロまではパイプラインによる輸入が安いと言われますが、茨城─サハリン間は1400キロ。東日本大震災後にガス需要が急増したことを踏まえると、輸入手段としてパイプラインを持つ意味は大きい」

 それほど経済的なパイプラインによる輸入を妨げてきたのは、天然ガスの最大の需要家である電力会社といわれる。
 
 2000年ごろ、日ロ間でパイプライン構想が浮上したことがある。サハリンにガス田の権益を持つ米エクソンモービルが、石油資源開発や伊藤忠商事と共同で事業化をめざした。しかし、同じ頃、米エネルギー企業のエンロン(01年に破綻)が、電力自由化をにらんで日本に進出。もし、パイプライン経由で安く天然ガスを買って発電すれば、電力会社にとって脅威になるというわけだ。結局、ガスの買い手がつかず、構想は霧消した。

 そうした状況が東日本大震災で一変した。東京電力福島第一原発の事故で、国内のすべての原発が停止。天然ガスによる火力発電に頼らざるを得ず、安価なガスの輸入が喫緊の課題になったのだ。関係者によると、今回は電力会社も水面下で構想に関心を示しているという。

AERA 2015年2月2日号より抜粋