バルセロナ(スペイン)豆腐店経営清水建宇さん(67)【憧れ】日本で買った中古の豆腐製造機は輸出手続きがなかなか大変だった。機械の値段と輸出費用だけで1千万円かかったという。開業の総費用はおよそ4千万円ほど(写真:本人提供) @@写禁
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バルセロナ(スペイン)
豆腐店経営
清水建宇さん(67)
【憧れ】
日本で買った中古の豆腐製造機は輸出手続きがなかなか大変だった。機械の値段と輸出費用だけで1千万円かかったという。開業の総費用はおよそ4千万円ほど(写真:本人提供) @@写禁

 海外で働く日本人が増えているが、そのバックグラウンドは様々。中には、60歳から思い切ったチャレンジに出た人もいる。

 清水建宇(たてお)さん(67)は記者として勤めた新聞社を定年退職後、「豆腐屋さん」への転身に踏み切った。しかも、スペイン・バルセロナで。周囲は驚いたが本人にしてみれば長く思い描いた夢であると同時に、周到に練り上げたプランでもあった。

「記者と全然違うことをやりたかった。農業は難しそう。豆腐作りならなんとかなりそうな気がした。しかも自分は豆腐好き。豆腐と油揚げがない生活は考えられなかった」

 2010年、おそらく欧州で唯一の街中の豆腐店「東風カタラン」を開く。記者時代、15カ国21都市で取材した。断トツで好きになったのがバルセロナだった。外国人を意識しないコスモポリタンな雰囲気に魅了された。

 妻も連れて行き、同意を勝ち取って外堀を埋めた。子どもたちには「60歳になったらバルセロナに行く」と事前通告。スペインの銀行に口座を開き、預金を毎年ちょっとずつ送金した。

 定年の1年ほど前には豆腐をつくるための機械を中古で購入。スペイン語の語学学校に通いながら豆腐屋で修業も積んだ。スペイン人は豆腐を食べるのだろうか。実は来店する人の7割はスペイン人。健康食として広まりつつある。冷ややっこや鍋ではなく、「TOFUサラダ」で食べる人が多く、自分でみそ汁を作る人もいる。

「新しい健康食として受け入れてもらえているようです」

 生活はハードだ。午前5時に起きて40分後にボイラーを点火。11時40分に店を開け、午後3時にいったん休憩。5時から8時までまた店を開ける。毎晩9時ごろまでは働くので、平日はのんびりできる時間もないが、「社会部の警察担当を思えば何でもない」。

 退職時に92キロあった体重が、いまは75キロ。血圧、血糖値、肝機能も正常値に戻った。

「体を動かすから健康になりました。3年後をメドに今の店を若い人にバトンタッチし、70歳からは妻と各地を旅したい」

AERA 2015年1月19日号より抜粋