アイドル活動をする中高生を描いたアニメ「アイカツ!」が子どもたちに人気を博している。その劇場版では、親も巻き込む80年代アイドルフレーバーが隠されているという。

 ソバージュの長い髪を揺らし、アコースティックギターを爪弾く。シンガー・ソングライターの花音(かのん)が歌うのは、ただ一人の「あなた」に向けたラブバラードだ。

<今どこかの あなたの今日を 思うたび><グッバイ 優しい 笑顔を忘れない もう会えなくても>

 真っすぐな歌詞と思いに、トップアイドルを目指す星宮いちごは魅了される。主役に抜擢(ばってき)された今度のスペシャルライブで、花音が作った曲を歌いたい──そう思いを打ち明けるいちご。12月13日に公開された「劇場版アイカツ!」のエピソードだ。

「アイドルとシンガー。異なるタイプの2人が出会い、新しい何かが生まれる。そんなストーリーを描きたかった。下敷きになっているのは、1980年代のアイドルの歴史の転換点です」

 この映画で総監督を務めている木村隆一さん(43)は話す。

 ステージに立つためにレッスンに励み、ドラマ撮影にチャレンジしたりファッションモデルをしたりと、いちごをはじめとした中高生のアイドル活動を描いたアニメ「アイカツ!」。小学生の女の子を中心に今、大人気だ。

 AKB48やももクロに自分の夢を重ねる、現代の子どもたちのための物語にまぶされた80年代の隠し味。木村さんたち制作陣は、こんな狙いを持っていた。

「学園ものとしてアイドルたちを描こうとしたとき、必然的に『卒業』や『先輩から後輩への交代』がテーマになった。ただ、もう少し引いた視点に立つと、親から子へという世代の流れが見えてきた。この枠組みを使って、親子で共感できる映画を作りたかった」(木村さん)

 制作陣が、80年代と現代をつなぐイメージとして共有したのが、あの名曲「赤いスイートピー」だった。そして、当時トップアイドルへの階段を駆け上がっていた松田聖子さんが歌うこの楽曲こそ、木村さんの言う「アイドルの歴史の転換点」だった。

 作曲は荒井(松任谷)由実さん。歌謡曲やフォークソングが中心だった70年代を経て、アイドルとニューミュージックのシンガーとの出会いが、時代を画す「赤いスイートピー」として花開いたのだ。

AERA 2014年12月29日―2015年1月5日合併号より抜粋