江上剛(えがみ・ごう)旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入り、1997年に起きた総会屋事件では広報部次長として混乱収拾に尽力した。作家デビュー後、2010年には、のちに経営破綻する日本振興銀行の社長も引き受けた (c)朝日新聞社 @@写禁
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江上剛(えがみ・ごう)
旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入り、1997年に起きた総会屋事件では広報部次長として混乱収拾に尽力した。作家デビュー後、2010年には、のちに経営破綻する日本振興銀行の社長も引き受けた (c)朝日新聞社 @@写禁

 銀行員としてカネに翻弄される人の姿を見てきた作家・江上剛さん。近著『狂信者』は、年金制度の闇を描いた。そんな江上さんの目に、アベノミクスはどう映るのか。

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──景気回復はこの道しかない、と安倍晋三首相は言います。

「流行語大賞候補に『トリクルダウン』という言葉がありました。経済ピラミッドの上層部が儲かれば、利益は滴り落ちて下層を潤し経済の好循環が生まれる、という経済思想です。アベノミクスはそれを期待しています。もう少しすれば滴り落ちて景気はよくなる、信じてください、というのが今度の選挙です」

──うまくいくでしょうか。

「高度成長の時代はトリクルダウンが効いた。自動車、半導体、家電など日本を代表する産業が海外で儲ければ、輸出が膨らむ。設備投資や下請けへの発注が増え、雇用や給料も増えた。富士山のように頂上が高くなればなるほどすそ野が広がる」

──信じてついてゆけばいいのでしょうか。

「日本経済は21 世紀になってロケット型になったと言われます。ロケットには富士山のようなすそ野がありません。強い企業はどんどん高度を上げて世界に飛んでゆく。現地生産の時代です。海外で展開する企業は円安で大儲けしていますが輸出につながらない。設備の投資先はアジアなど新興国です。儲けは内部留保としてため込まれます」

AERA 2014年12月15日号より抜粋