3D映画の最高峰といえば、ジェームズ・キャメロン監督の「アバター」(2009年)といわれてきた。だが、3D映画はハリウッドのスペクタクル映画の専売特許ではない。ここへ来てフランスの鬼才たちが初めて手掛けた3D映画が相次いで公開される。

「天才スピヴェット」(公開中)は、「アメリ」の大ヒットで知られるジャン=ピエール・ジュネ監督作品。双子の弟を亡くした10歳の天才科学者スピヴェットが旅する中で成長していく過程を描く。派手なガンアクションやカーチェイスがあるわけでもないファンタジーだが、3D映画が苦手な人も、子どもの頃に初めて「飛び出す絵本」に触れたときのようなワクワク感を楽しめる。

「子どもの頃から立体鏡が好きだった」というジュネ監督は3Dにしたきっかけを、「原作本の余白にスピヴェットの発明作品のイラストがちりばめてあったんです。これが宙を舞っていたら楽しいだろうな、つかめそうにしたら面白いだろうなと思いました」と振り返る。実際、映画でそのような映像を創り出した監督だが、撮るにあたっては何が3D映画に向き何が不向きか、実験を繰り返したという。例えば、カメラの前で人が速く動きすぎたり、カメラと人との距離が近すぎたりするとボケてしまい、効果はなかった。

「人とカメラの距離などを緻密に計算して、見る人が心地よいと思うものを3Dにしました。仕上げの段階でも、目が痛くなったり頭が痛くなったりといった欠陥部分を1カ月かけて修復しています」

 その結果、2Dよりファンタジックな映像になった。

「私は3Dは芸術的に映画に取り込むべきだと考えています。ハリウッドの3D映画は単に商業目的なところがあって、客を呼び込むために2Dで撮ったものを仕上げで3Dに変換することもある。本作はジェームズ・キャメロンの会社から借りた本格的な3Dカメラで撮っていますが、そこまでして3D映画を撮ろうとする人は実は少ない」

AERA  2014年12月8日号より抜粋