David Pilling/1990年からFT紙に加わり、チリ、アルゼンチン特派員、製薬・バイオ関連産業担当などを経て現職。The Society of Publishers in Asia Awardはじめ受賞歴多数(撮影/矢内裕子)
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David Pilling/1990年からFT紙に加わり、チリ、アルゼンチン特派員、製薬・バイオ関連産業担当などを経て現職。The Society of Publishers in Asia Awardはじめ受賞歴多数(撮影/矢内裕子)

 2020年の五輪に向かって槌音響く東京。だが、この地を愛する外国人の目には、その姿がいささか無謀に見えるようだ。

「来日した外国人は、東京のことを高層ビルとコンクリートの街だと言いますが、それは東京の一面でしかない。もっと複雑で豊かな面が東京にはあり、そこが魅力だと思います」

 こう語るのは、香港を拠点にアジア各地を取材するフィナンシャル・タイムズのアジア編集長デイヴィッド・ピリングさんだ。東京支局長として、2002年から6年半、東京で過ごし、今年、初の著書『日本─喪失と再起の物語 黒船、敗戦、そして3.11』を上梓した。

 当代きってのアジア通ジャーナリストといわれるピリングさんから見た、東京の魅力と課題はどのようなものだろうか。

「都市とは、村落共同体の集合体だといわれますが、特に東京はそうした面が強いと思います。たとえば都内に残る商店街がよい例ですが、和菓子屋、豆腐屋、八百屋と小さな店が並び、地域に根付いている。今でも祭りの時にはみんなで神輿をかついだり、高層ビルのイメージだけを持っていると、驚くような光景です」

 1964年の東京オリンピックは、日本が戦後の混乱から抜け出し、先進国の仲間入りを果たしたことを示す華やかなものだった。だが2020年のオリンピックの意義は、まったく別なものになるだろう、とピリングさんは言う。

「ポジティブな側面で言えば、オリンピック後も観光客が増えているロンドンやワールドカップを開催したブラジルのように、東京が活性化されるでしょう。ただし、無駄な施設を造るなど馬鹿げたことをしなければ、ですが」

 最近、耳にする「グローバル化」については、意味を間違えると、日本が持っているよさを台無しにしてしまう恐れがある、と懐疑的だ。

「自分も含め、日本を愛する多くの外国人が惹かれているのは、グローバル化されていない、日本ならではの文化や風習、美意識です。もしも日本が記号化されたグローバルな国になってしまったら、今ある魅力はなくなってしまうでしょう」

AERA 2014年12月1日号より抜粋