海岸で強い揺れを感じたら、高い所に逃げろ──。これは東日本大震災の教訓だが、万能ではない。揺れは小さくても、大津波に襲われることもあるからだ。1677年、茨城県から千葉県沖で発生した「延宝房総沖地震」がその例で、「津波地震」と呼ばれる特殊な地震だったと考えられている。

 延宝房総沖地震の発生場所は、東日本大震災の震源域の南側にあたる。巨大地震の影響で、隣接する震源域の地震が起こりやすくなる可能性があるため、東北学院大学の柳沢英明講師らは、古文書を調べ直した。古文書の記載であたりをつけて、千葉県銚子市の海岸から600メートル、標高10メートルの池を調べると、延宝の津波で運ばれた可能性がある砂が見つかった。

 柳沢さんは、この池に津波が届いたとすると元の地震はどのようなものだったのか、シミュレーションを行った。池のそばでは場所によって、20メートルの高さまで津波が達する結果になった。千葉県が公表しているハザードマップが予測する池の近くの海岸の浸水は、柳沢さんの推定の4分の1の高さだった。さらなる証拠集めや検討が必要だが、新たな証拠が、過去の地震像を変える可能性を示した。

「想定は変わることがあります」と柳沢さんは話す。

 将来の地震は、過去の地震から予測する。関東に被害を及ぼした巨大地震については、わからないことだらけだ。研究が進んで前提が変われば、予測も変わる。

AERA  2014年12月1日号より抜粋