パーソナルスタイリストのみなみ佳菜(42)は、一般の個人を対象にした服装のコンサルティングを専門とする。新規予約は2~3カ月待ちという売れっ子であると同時に、4歳の娘をもつ母でもある。仕事に子育てに奔走する、彼女の原点とは。

 大学を卒業して、大手アパレルブランドの販売に携わって以来、服に関わるキャリアを積んで20年。販売時代は常に店舗内売り上げトップを維持し、20代でヘッドハントされ、エリアマネジャーも務めた。服が好き。人が好き。靴下1足を買ってもらうために客の相談に45分付き合い、同僚に呆れられたこともある。「買わせるのではなく、本当にその人が輝く服を提案したい」という強い思いが常にあった。

 みなみの原点は幼少期にある。香川でコーヒー店を営んでいた両親が6歳の時に離婚。みなみを引き取った母は新しく店を開き忙しく、徐々に家に帰らなくなった。次第に折檻(せっかん)も始まった。「食事代」として時々テーブルに置かれる数千円で、みなみはパンを買わずに服を買うようになった。

「あんた、赤い服が似合うやん」

 服を介した会話だけが、母との甘い思い出だったからかもしれない。

 学校帰り、デパートの屋上で遊んでいると、友達には迎えに来る親がいるのに、みなみにはいない。本来はひょうきんなのに不安からふさぎがちになり、友達も離れていった。そんなみなみを変えたのは、一枚の服だった。

「忘れもしない、黄色と白のボーダーのTシャツです。くすんだ色の服ばかり着ていたのをやめて、元気が出そうな色合いのTシャツを着たら、それだけで友達の顔が変わった。その日から友達と普通に話せるようになって、自分を取り戻せた。服にはすごい力があると確信しました」

 みなみが8歳の頃の出来事だ。その後、みなみは父に引き取られ、平穏な生活を取り戻した。服の魅力にとりつかれた少女は、授業中はノートにアパレルブランドの名前やコーディネートのプランを書き、中学生の頃には同級生の服を選んでいた

(文中敬称略)

AERA  2014年11月3日号より抜粋