メドピアの薬剤評価掲示板のイメージ。登録時に医師免許証のコピーの提出か、勤務先への直接の問い合わせで身分を確かめる(写真:メドピア提供)
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メドピアの薬剤評価掲示板のイメージ。登録時に医師免許証のコピーの提出か、勤務先への直接の問い合わせで身分を確かめる(写真:メドピア提供)
創業者の石見さん。医療現場の電子化を進め、「医師の意思決定の支援など、非効率な部分を改善したい」(撮影/編集部・宮下直之)
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創業者の石見さん。医療現場の電子化を進め、「医師の意思決定の支援など、非効率な部分を改善したい」(撮影/編集部・宮下直之)

 副作用はないか、本当に効果はあるか…。新しく薬を患者に処方するときなどは、医師も悩む。そんなとき、薬の口コミサイトが決断を助ける。

 眉間に刻まれた深いしわが、病の深刻さを表していた。診察室で、精神科医の根本安人(やすんど)さん(40)の前に座る40代の女性は、「死にたい」と何度も繰り返した。重度のうつ病と診断され、ほぼ1年が経っていた。

 根本さんは、この女性にさまざまな種類の抗うつ薬を処方したが、症状は上向かなかった。そんなとき、医師専用のソーシャルメディア「MedPeer(メドピア)」で紹介されていた事例が目に留まった。

 抗うつ薬に加え、少量の非定型抗精神病薬を処方する――抗精神病薬とは、統合失調症の患者のための薬だ。「まったくベクトルが違う」(根本さん)という二つの薬だが、組み合わせることで、うつ病患者の症状が改善する場合があるという。

 約2週間後、根本さんの問診に、笑顔で応える女性がいた。

「薬の効果に驚いた。初めて処方する薬は副作用が気になり、慎重にならざるをえない。しかし、メドピアで医師の評価を直接聞けたことで、判断の後押しになりました」(根本さん)

 こうした医師向け情報提供サイトを運営するメドピアの設立は2004年12月(当時の名称はメディカル・オブリージュ)。

「臨床医は目の前の患者さんを救うことができる。一方、ITの力で数万人の医師を支援し、その先にいる多くの患者さんを救う、そんな道も医者の一つの在り方だと思ったんです」

 そう語るのは、創業者の石見陽(いわみよう)社長(40)。循環器内科医でもあり、今も週に1度は臨床に立ちながら、メドピアを売り上げ5億7千万円(12年度)の企業に成長させた。現在の会員は7万人を超え、国内の医師の4人に1人が利用する。

 医師限定の掲示板やマーケティングにも使えるアンケート、勤務医による病院評価など、さまざまなサービスを展開しているメドピア。中でも医薬品業界の注目を集めたのが、「薬の食べログ」にも例えられる「薬剤評価掲示板」のサービスだ。

 医師が新しい薬を使う際、参考にするのは、薬の添付文書、製薬会社のMR(医薬情報担当者)や学会から提供される情報など。一方、日々患者と向き合う医師たちは、こんな思いを抱く。

「たとえ同じ病名の患者さんでも、個人差があってまったく違う。同じ薬でも効果のある人とない人がいる。効果が出る処方量も違う。そうした『使い勝手』はマニュアルには書いてなく、手探りで見つけるしかないんです」(前出の根本さん)

 メドピアの薬剤評価掲示板は、約7万人の会員による各薬の評価を集約。独自の統計処理で、効果やコストパフォーマンス、患者にとっての使いやすさ(錠剤の飲みやすさ、内服する頻度など)、副作用など6項目を数値で評価している。評価者のコメントもすべて読め、“処方実感”を共有できる。

AERA  2014年10月27日号より抜粋