製薬業界の変化がフグ料理店に波及? その理由

AERA
 安倍政権が成長産業と期待している製薬産業だが、どうも足元がおぼつかない。研究が進むほど大型新薬が生まれない構図に、業界の悩みは深い。

 トラフグ産地の遠州灘に面する静岡県。あるフグ料理店にはちょうど2年前から、ある「お得意様」の姿がぱたりと消えた。60代の男性店主はこう嘆く。

「製薬関係者の接待がなくなりました。以前は一人1万5千円ぐらい飲み食いされていましたが、今は病院に2500円の弁当を届けるだけ。高級料理店はどこも死活問題ですよ」

 原因は、業界団体の医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(加盟約220社)が2012年から、1人5千円を超える接待を原則禁止にしたからだ。さらに今年7月からは、前年度の接待費総額、講演の謝礼や原稿料の金額、支払った医師の名前などを公表する制度が日本製薬工業協会(製薬協、加盟約70社)のガイドラインにより始まった。

 こうなった背景には、製薬企業と医師との“癒着”がある。製薬大手ノバルティスファーマによる論文不正事件を出すまでもなく、中立性を疑わせる医師への不適切な資金提供や接待が、たびたび問題となり、業界は信頼回復に乗り出したのだ。

 では、なぜ製薬企業は医師に不適切な便宜を図るのか。その答えの一つが、薬の特許切れだ。ノバルティスは、主力商品の高血圧治療薬「ディオバン」の特許切れに伴う売り上げの減少を補うため、類似薬の論文データを改竄したとみられている。

 特許切れは製薬企業にとっては死活問題。他社が安価な後発医薬品(ジェネリック)を発売するからだ。ただ、大手各社の主力薬は、2010年前後に相次いで特許切れを迎えたにもかかわらず、有効な手立てを打てずにいる。業績を引っ張る大型新薬が見つからないのだ。

 業界では、世界での年間売上高が1千億円を超える大型新薬を「ブロックバスター」と呼ぶ。日本発だと、第一三共の高脂血症治療薬「メバロチン」や武田薬品工業の糖尿病治療薬「アクトス」などが、それだ。

 ただ、新薬候補の化合物が薬として発売される確率は、なんと「3万分の1」(製薬協)。化合物の発見から発売までにかかる期間は、平均でも15年前後と長い。費用もかかる。細かい話だが、実験に使うネズミは1匹3千円。「特殊なネズミなら6万円」(業界関係者)。大型新薬を生み出すには、資金力がものを言うのだ。それでも難しいため、他社からライセンスを買った「導入品」で食いつないでいる。

 こうした製薬業界の現状について、バークレイズ証券アナリストの関篤史氏は、「イノベーションが起きていないのが業界の一番の問題」と指摘する。米国では2年前から、臨床途中でも画期的と認められる薬については発売を認める新制度がスタートした。これまで指定された薬は50件ほどだが、うち日本発は1件のみ。国内の製薬業界には、ブレークスルーとなる発見をできず、手詰まり感が漂っている。

AERA 2014年10月27日号より抜粋

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