さまざまなチャンネルでファンにアプローチするこうした戦略は、「クロスメディア」と呼ばれる。年末には初めての映画も公開される予定。特典として妖怪メダルの付いた前売り券50万枚は、すでに完売した。

 ゲーム産業に詳しいSMBC日興証券の前田栄二シニアアナリストは言う。

「2014年度、妖怪ウォッチ関連の市場は500億~1千億円に達すると予測している。キャラクター商材で、これだけの規模をたたき出せば、10年に1度どころのインパクトではない。ぶっちぎりの存在です」

 ただ、「クロスメディアだから成功した」と単純に結論づけるのは早計だろう。前田さんも「クロスメディア的な戦略をとった企業やコンテンツは以前にもあった」と話す。では、何が妖怪ウォッチをここまでの“お化けコンテンツ”に仕立てたのか。前出のさやわかさんは、現代という時代の空気感が巧みに取り込まれていると指摘する。

 1990年代までにヒットしたゲームやアニメは、「ここではないどこか」を目指して冒険の旅に出て、悪を倒すことが目的だった。一方、妖怪ウォッチはといえば、「敵のボスと争うことより、日常の生活空間に目を向けている」(さやわかさん)

 アニメの第1話で、妖怪ウォッチを手に入れたケータ。だが、その後も「冒険の旅」は始まらない。そこで描かれるのは、友達との間のちょっとしたトラブルや、小学生なら誰でも感じるような学校での悩みなどだ。

●新自由主義への反動

 身の回りでトラブルを引き起こすのが、妖怪たち。例えば、部屋の中にいる人たちの雰囲気をどんよりと悪くして、もめごとを引き起こす「ドンヨリーヌ」によって、ケータの両親が夫婦げんかをする。妖怪が見えるケータは、その妖怪と友達になることで問題を解決する。

「今の子どもたちはコミュニケーション志向なのだと思う。家族や友人をないがしろにして、自分だけが競争で勝てばいいとは思っていない。これは広い視点から見ると、2000年代前半に支持を集めた新自由主義的な競争社会への反動と読める。仲間を蹴落としてでも上を目指すのではなく、助け合って協調する。妖怪ウォッチは、社会の病に対する処方箋なのかもしれません」(さやわかさん)

 妖怪ウォッチは、空想の冒険までいかない、現実のちょっと外側に新しい“世界”をつくることで、子どもたちを魅了しているのだ。

●女の子のリアル追求

 多くの子どもたちを引きつけているコンテンツが、もう一つある。「アイカツ!」だ。今、小学生の女の子を中心に爆発的な人気を集めている。

 アイカツ!とはアイドル活動の意味。女子中高生たちが、トップアイドルを目指してコンサートやファンとの交流イベントなどに取り組むストーリーだ。

 アイカツ!も妖怪ウォッチと同様、複数の企業が携わる。原案のバンダイはこれを「IP(知的財産)軸戦略」と表現する。中心は、ゲームセンターなどにある大型ゲーム機とカードを組み合わせて遊ぶ「データカードダス」と、テレビアニメだ。アニメ制作は、機動戦士ガンダムシリーズも手掛けてきたサンライズ。12月には映画公開も控える。

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