「週休4日で月収15万円は割がいい部類。裏を返せば、週3日は本気で働く覚悟を持った人が対象ということです。仕事自体はゆるくない。派遣先には、正社員のように責任ある仕事をどんどん任せて、と伝えている」
ビースタイルが開拓した求人企業はITや、小売りといったサービス業などの中小企業を中心とする30~40社。「ユニークな人材を採用したい」「挑戦する若者を応援したい」といった企業が集まり、採用を想定する人材のレベルは低くない。
求人企業の一つ、ソフト開発のfreeeは創業2年余。学生インターンも含め総勢60人ほどのベンチャーだ。グーグルなどを経て起業した最高経営責任者の佐々木大輔さんの考えはこうだ。
「新しいモノを創り出す企業には、常識にとらわれない人のほうがフィットする。週3日で15万円は高いかもしれないが、ファストフードの店員と比べても意味がない」
こうした趣旨をきちんと理解してもらうため、ビースタイルは9月以降、応募者を対象に説明会や討論会を繰り返してきた。その結果、「適当に働いていいお金がもらえる」といった甘い考えの人は去り、残ったのは100人ほど。
起業を目指す人、ミュージシャンやスポーツ選手として活動したい人、資格試験の勉強の時間を確保したい人……。今月末には、求人企業と応募者のマッチングが始まる。
前出の山口さんも100人のうちの一人だが、彼にとって「ゆるい就職」はあくまでも「つなぎ」。現在はバーテンダーのアルバイトやビジネス系動画サイトのコンテンツ制作で月収10万円ほどを得ているが、家賃だけで出費は月4万円近い。
「正直、東京では月収15万円でも厳しい」
●まだ将来を絞れない
派遣労働者などでつくる労働組合、派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は、「ゆるい就職」の危うさを指摘する。
「月15万円では生活は非常に厳しく、低収入が問題となるおそれがあるうえ、社会保険にも入っていない状態が続くのは危険だ。企業は社会保険の費用などによる負担増を避けたいはずで、ゆるい就職を選んだ若者はそのままの状態にとどまることを強いられ、企業に都合よく使われるリスクがある」
日本的終身雇用システムが崩れつつある一方、新卒一括採用の網から漏れたら待っているのはワーキングプア、という状況は大きく変わってはいない。応募者の一人で、女優としても活動する相川瑞紀さん(25)は揺れる胸の内を明かした。
「今後、女優業以外に関心が向くかもしれないし、いろいろなことに挑戦したい。今は将来の道を一つに絞れない。自由がある分、“痛み”も仕方ない」
若新さん自身、万人向けでないことは認めている。
「新卒でフルタイムで働く正社員になれないと、十分に稼げる仕事に就けず、“落ちぶれている”と見られてしまうのが日本の現実。社会が複雑化した今、30代前半くらいまではモラトリアムがあってもいいのではないか。“ハミ出しているけど有能な人”にとって、ゆるい就職が一つの選択肢になればいい」
※AERA 2014年10月27日号