東海大学医学部の授業の様子。この日は3年生が血液型を判定する実習をしていた。伊勢原キャンパスにて(撮影/写真部・大嶋千尋)
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東海大学医学部の授業の様子。この日は3年生が血液型を判定する実習をしていた。伊勢原キャンパスにて(撮影/写真部・大嶋千尋)

 就職はしたものの、何だかやりがいが見いだせない。そんな社会人たちが一念発起、医学部を目指すケースが増えている。背景にはどんな思いがあるのか。

 夕飯を食べながら母親が切り出したのは予想もしない話だった。おばあちゃんが大腸がんで余命3カ月。おばあちゃん子だった堤俊久さん(当時24)は、食事がまったくのどを通らなかった、と振り返る。

「それから亡くなるまでの半年、死んでいくのをただ見ているしかなかったんです」

 それでも、使っている薬や治療について自分なりにインターネットで調べて説明してあげると、おばあちゃんは安心した顔をしてくれた。その体験が、ずっと心の中に残っていた。

 大学卒業後、特にやりたい仕事もなく、派遣社員として大手電機メーカーで部署を転々とする日々。あるとき30代の知人が働きながら医学部を目指しているという話を聞いた。

 そんな道があるのか。3年前の祖母の死を思い出した。自分ももうすぐ30歳。このままでいいのか、という思いは次第に、医者になりたい、という強い思いに変わっていった。

 学費の負担を考えると国公立しか選択肢はない。センター試験では5教科7科目が必要となる。理系出身ではあったが現役の時からは10年も経っている。参考書を買って独学で勉強してみても、まったく歯が立たない。

「1年だけ挑戦してだめならあきらめると決め、予備校に通うことにし、仕事をやめました。予備校の授業料は親に頭を下げて借りました」

AERA 2014年10月13日号より抜粋