子どもの健やかな成長に、食事が大きな役割を果たすことは、言うまでもない。しかし働く母親にとって、理想的な食事を作るのはかなり難易度が高い。周囲の声に葛藤を抱く母親もいるようだ。

「ねえ、あなたの娘、ちょっと太り過ぎじゃない?」

 高校時代からの親友の一言が、胸を突いた。女性(40)は、広告会社のマーケティング担当として働く。一人娘(10)は、身長135センチにして40 キロ超。確かにスリムとは言えないが、成長すればやせるのでは?と見て見ぬふりをしてきた。

「親友の指摘に、ガーンと脳天を打たれました。娘がデブなのは、私のせいなんです」

 思い当たることは多々あった。朝は、早朝のメールチェックに始まり、情報収集、プレゼン準備、娘の登校準備や洗濯物干しなどでてんやわんや。朝食は、娘の好物の「砂糖がたっぷりコーティングされたシリアルと牛乳」が定着した。

 それさえも買いに行く時間がなくて、小麦粉を水で溶いたものを焼き、冷蔵庫にあるハムやチーズ、冷凍ホウレンソウをはさんで食べさせたこともある。

「その具さえも尽きて、最終的にはハチミツを塗るだけになりました。それでも娘は、『おいしい、おいしい』ってバクバク食べてくれるんですよ」

 さらに、午後7時ギリギリにお迎えに行って家に連れて帰ると、夕食ができるのは8時になってしまうから、

「娘は我慢できず、ポテトチップスの袋を開けちゃったり…」

 時間がかかる煮込み料理などは当然パス。調理時間が短いうえに子どもウケがいい、炒め物や揚げ物中心になりがちだ。こうして、さらにカロリーがかさんでいく。

「このままじゃ、娘はいわゆる肥満体になり、誰からも相手にされない女子になっちゃうんじゃないかと、暗澹(あんたん)たる思いです。だから親友の言葉に、『私は働いてるんだから、あなたみたいに完璧にできないの!』と逆ギレしちゃったんですよね」

 専業主婦である親友は日々、フェイスブックに「料理自慢」をアップしていて、お月見の日はお手製のお団子、ママ友を家に呼んだ日はイチジクのごまクリームがけだ、サンマとレンコンの甘酢あえだ、コンニャクのオランダ煮だと聞いたこともない料理を詰めた「秋のお弁当」と、いちいち手が込みまくりだ。息子を日本文化についてキッチリ語れる「国際人」にしたいらしい。

「あ~、負けた~って気がしちゃうんですよね」

AERA 2014年10月6日号より抜粋