トクホ飲料が空前のブームになっている。でも、気をつけて。何ごとも「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」。健康飲料を飲み過ぎて健康を害しては、意味がありません。

 東京・銀座にある「銀座泰江内科クリニック」。糖尿病治療を手がけるこのクリニックには、大手飲料メーカーの男性社員5人が治療に通っている。糖尿病になった原因は、とても不可解なものだ。泰江慎太郎院長は、

「健康飲料の飲み過ぎが原因です。自社の健康飲料を無料で飲めるため、水代わりのように口にしていたようなのです。本末転倒の感じがあります」

 と嘆く。5人のうち3人は、血糖値が1デシリットルあたり400~500ミリグラムの重症患者で、インスリンによる治療を受けているという。

 ここまでの事例はごく一部かもしれないが、健康飲料は人々にとって身近なものになっている。栄養成分を多く含む「エナジー系」や、「脂肪分解」などをうたう「機能系」、プリン体や糖分を減らした「ゼロ系」など、多種多彩だ。

 健康飲料のなかでも、主力商品となっているのは、薬事法に抵触しない範囲で機能性が表示できる「特定保健用食品(トクホ)」の認可飲料だ。香川照之さんのCMでおなじみの花王の茶カテキン飲料「ヘルシア」は、2003年の発売以来、息の長い商品となり、トクホの知名度アップに貢献した。

 そんなトクホに近年、再びブームが訪れている。火付け役はトウモロコシ由来のデンプンで脂肪の吸収を抑える食物繊維「難消化性デキストリン」を含んだ健康飲料だ。

「こんな人気になるとは思ってもみませんでした」

 そう話すのは、この成分の生みの親、デンプン加工品メーカーの松谷化学工業(兵庫県伊丹市)の大隈一裕・研究所長。

 大塚製薬が1988年に発売した「ファイブミニ」で起きた食物繊維ブームにあやかろうと、“お蔵入り”していた成分を引っ張り出し、特許を取得。同じ年に粉末状で発売した。その当時は、なかなか売れなかったが、粘り強く効能と安全性のデータを蓄積し続けていたところ、トクホブームに乗った。

 現在、トクホ市場へ新規参入をうかがっているのは、化粧品メーカーだ。現状のトクホ飲料が生活習慣病予防向けなのに対し、資生堂は、認可されれば初となる「美肌系」のトクホ飲料「素肌ウォーター」を申請中。業界内では、今月中にも認可されるとみられている。トクホに詳しいシード・プランニングの原崎木綿子研究員は、

「認可されれば、難消化性デキストリン含有飲料のときのように、ほかの化粧品各社が次々参入する可能性があります」

AERA 2014年9月29日号より抜粋