職場での仕事はもちろん、家に帰って家事までこなせれば、父親として「最強」に違いない。しかし、やりかたを間違えると「キッチンでゴルフをするようなもの」なんてことに……?

 かつて、マルチメディアスクール大手「デジタルハリウッド」の創設時のメンバーだった滝村雅晴さん(44)は、毎日「0時41分の終電に乗るか、会社に泊まるか」という、究極のハードワーカーだった。働きすぎで倒れて、救急車で運ばれたこともある。

 会社の同僚だった妻(45)と結婚し、長女の誕生がきっかけで滝村さんは週末料理にめざめた。レシピという設計図通りに作れば、びっくりするぐらいにおいしいものができるところに魅力を感じた。週末になると夜中まで台所に立ち、毎回スペシャルな料理をこしらえた。その時点の自分は、「家事を手伝ういいパパ」だと思っていた。

 部下を大勢自宅に招いてホームパーティーを開き、自慢の料理を披露したことがあった。料理したことに満足し、片付けは放置。妻が子どもを寝かしつけた後、夜中じゅう洗いものの山と格闘し、翌朝、台所はキレイに片付いていた。はたと気がついた。

「自分は家族のためじゃなく、料理を趣味として楽しんでいただけだ。キッチンでゴルフをしていたようなもの。自分が楽しいだけの料理では家族は笑顔にならない」

 ここに気づけるかどうかは「最強な父」になれるかどうかの大きな分かれ目だ。恵泉女学園大学教授の大日向雅美教授(発達心理学)は言う。

「まずは、妻への無関心に気づくこと。それが、育児も家事も妻任せで、せっかく家にいても存在感のない『不在パパ』にならないための第一歩です」

 家族がお腹をすかせている時、その人を思って「いつものごはん」をつくり、洗うところまで責任を持つ「パパ料理」という父親マインドを広めようと、滝村さんはブログを書き始めた。2006年に次女(8)が生まれ、09年には会社を辞めて独立。父親の家庭料理の支援事業として「ビストロパパ」を設立した。

AERA  2014年9月15日号より抜粋