美を追求する男性、「美魔夫(びまお)」が増えている。彼らが美容に目覚めたきっかけは何だったのだろうか。

「夫がおかしい!」

 結婚20年目のある夜。妻・ミエさん(49)は見てしまったのだ。夫が、鏡台に映る自分に見惚れ、うっとり目を細める姿を。

 以来、どっぷりと美にハマっている。年齢を超えて美を追求する「美魔女」ならぬ「美魔夫(びまお)」だ。

 翌月、カード会社から送られてきた明細には、高級エステや有名サロンのたび重なる利用状況がズラリ。総額19万円。目を疑った。いったいなぜ、夫は豹変してしまったのか? 

 ミエさんの夫・タカシさん(47)は美にハマり始めたきっかけについて、「いま思うと、娘のひと言だったかもしれない」と、振り返る。

「パパのヒゲ、汚い!」

 毎晩お風呂も寝るのも一緒。目に入れても痛くない小学6年の次女のひと言は、胸にズシンと突き刺さった。その日のうちに家電量販店へ。5千円でヒゲトリマーを買い、夜な夜な手入れを始めた。0.5ミリ単位で長さを調整し、こだわり抜いた「イチローヒゲ」(大リーグ・イチロー選手のようなヒゲ)。ひげ剃りあとの肌には、ドラッグストアの安売りで買った化粧水をはたいていた。

 だがせっかくの努力も、アッという間に台無しに。生来ヒゲが濃いから、翌日の午後には無精ヒゲへと転じてしまうのだ。「ならば」と通い始めたのが、メンズエステのヒゲ脱毛。十数回の施術が終わるころには、フェイスケアや顔のうぶ毛脱毛にまで、手を広げていた。

「美容は仕事と違って、頑張った分だけハッキリ結果が出る。キレイになるたび、娘が『ツルツル~』って頬を撫でてくれるのもうれしくて」

 とタカシさん。ツルスベ肌を手に入れると、「ここでやめたらリバウンドが怖い」との不安もよぎった。中途半端はイヤ、どこまでキレイになれるか、とことんまで美を極めたい。新たな技術や、生まれ変わる自分を見てみたいという。

 長年メンズコスメ市場を牽引するマンダムのPR担当、下川麻友さんも、夫が美に向かうきっかけは妻より「娘」だと話す。

「多くの夫は、妻になんと言われようが動じにくい。でも娘に『臭い』『汚い』と指摘されると一転、美に関心を持ち始めるんです」

AERA 2014年9月22日号より抜粋