これまで、数々の経営者を生み出してきた企業・リクルート。若きベンチャー経営者たちを生み出す背景には、変化を活かす社風があった。リクルート・グループ出身のライター・上阪徹氏が、その変化のDNAについて語った。

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 1990年立ち上げの制作専門のグループ会社に籍を置いていた。設立パーティーには江副浩正氏も来ていたが、小柄で華奢な姿に、教えてもらわなければ江副氏と気づけなかった。エネルギーがギラギラわき立ち、カリスマ性溢れる経営者には見えなかった。

 強烈な光を放ったのは、江副氏が文字として残した言葉だと私は感じている。その象徴が、かつて社訓として使われた「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」。「変わること」は、社訓だったのだ。

 この言葉が最も強く意識されていたのは、採用の現場だったのではないかと思う。最も優秀な人材が人事に送り込まれるとよく耳にした。そして彼らが「変わること」への耐性を精査していたのだろう。変化を嫌い安定を求める人は、リクルートにはまったく合わないからである。

 変化耐性の強い人材が、入社後にさらなる変化を求められる。こうして、変わっていくことが当たり前のカルチャーが育まれた。イノベーションマインドを向上させるための新規事業開発コンテストなどが加わって、「変えられる」「変えていいんだ」という空気は、さらに大きなものになる。

AERA  2014年9月8日号より抜粋