「ウチは大丈夫」と思っていても、いざその時になるともめだすのが、相続問題。親との同居問題も合わさって、こんなケースもあるようだ。

「通帳を預かってほしい」

 東京都渋谷区に住む自営業の女性、Tさん(54)に7月、母親がそう言って電話をかけてきた。Tさんには2人の兄がいて、母は下の兄の家族と同居している。どうやら、自分の銀行預金を下の兄が使い込んでいるのではないかと、不安な様子。

 母が同居を始めたのは、今年3月。下の兄は娘の中学入学を機に、練馬区内で一人暮らしをしていた母の家に越してきた。これには、いきさつがある。父親が健在だったころのこと。上の兄とTさんには、すでに持ち家があった。そこで転勤が多く、持ち家のない下の兄は、こんな提案をしてきた。

「両親のどちらかが亡くなったら自分が同居する。だから、実家の土地家屋をもらいたい」

 親の面倒をみてもらえるならと、上の兄とTさんは快諾。父が亡くなると、約束通り、土地家屋を下の兄が相続した。ただ、父名義の預金は母が相続し、母が亡くなったら、その預金を上の兄とTさんが相続する話になっていた。

 相続時の預金額を覚えていたTさんは、母から電話を受けると、下の兄にメールで「現在の預金残高と大きな出金用途を教えてほしい」と連絡。すると、こんな返信があった。

「母さんには何度も説明しているが、すぐに忘れて、自分たちを泥棒呼ばわりする。いちいち収支報告しろというなら、お前が同居して管理すればいい」

 Tさんが、母を納得させるためだからと食い下がると、すでに約1千万円が引き出されていた。内訳は、実家の不用品廃棄、清掃、リフォームの費用、引っ越し費用、同居に必要な家具や電化製品の購入費…。兄家族の部屋に取り付けた3台のエアコン代や、玄関まわりのリフォーム代もあった。Tさんが問い詰めると、兄は開き直った。

「費用は両方の家計にまたがるものが多く、同居しなければ不要だったものだ。財産があるのだから、環境を整えるのは親の役目。預金管理だけ口出しされては『母親の金は自分たちのものだから一切使うな。お前は無償で母親の面倒をみろ』と言われているようだ。経済面も含めて介護の負担は大きい。扶養の義務を負わないのなら、相続を放棄するのが常識ある人間だ。そんなに理解がないのなら、全てを相続しても同居は難しい」

AERA 2014年9月15日号より抜粋