「お母さん、それ宿題じゃない」

 言わなければ。何度も思いました。母の布団にもぐり込んで叫んだら、許してくれるだろうか。いろいろ考えているうちに、また寝てしまいました。

 朝目が覚めたら、枕元に小さな白い恐竜が立っていました。申し訳なくて、母の顔を見て「ありがとう」を言えませんでした。忙しい母は、工場に行く用意をしながら「壊さないように持っていきなさいよ」と見送ってくれました。

 母とは今でも仲がいいほうじゃないけれど、口げんかの後は決まってあの夜のことを思い出します。枕元のスタンドの小さな明かり。母の真剣な横顔。

「私は愛されていたんだ」

AERA 2014年9月15日号より抜粋