動物や子どもを描いた、かわいい日本画が人気を集めている。なかでも長沢芦雪(ろせつ)は、イヌやカメをユーモラスに描いた人気の絵師。その芦雪による、知られざる絵巻物が見つかった。

 目をクリクリさせたイタチが清流のアユを狙っている。傍らに咲くのはレンゲだろうか。今年4月に発見された、長沢芦雪の「人物花鳥図巻」の一場面だ。

 動物や子どもを描いたカワイイ日本画が展覧会で注目され、図録が完売するなど、ブームになっている。江戸中期の絵師、伊藤若冲(じゃくちゅう)が知られているが、人気上昇中の注目株が、同時期に活躍した芦雪。円山応挙に学び、門下一の実力を誇りつつ、クスッと笑ってしまうようなかわいい絵を多く残した。

 その芦雪の大作が見つかった。今まで存在すら知られていなかったが、発見した静岡県立美術館学芸員の福士雄也さんは、「芦雪の代表作に加わるもの」と絶賛する。画風や落款(らっかん)から、初期の作品とみられる。芦雪の絵巻物で確認されているのは晩年の2点のみ。その意味でも貴重だという。

 絵巻は全長16メートルで、サル、イヌ、カメなどの動物や、布袋(ほてい)、大黒、鉄拐(てっかい)仙人などの人物が描かれている。

「機知に富む作品。一つ一つのモチーフもいいのですが、場面展開がすばらしい」(福士さん)

 桜の枝がスルスルと伸びてきて、何だろうと繰っていくとカラスとサルが現れる。右側のサルはカラスを見ていて、左のサルの視線の先にはイヌがいる。

「つまり、視線で前後の流れをつないでいるわけです」

カラスが枝の向こう側にいるのが不自然に思えるが、これも芦雪のたくらみではないかと福士さんは見る。

「限られた画面の中で、いかに広い空間を作るかを考えている節がある。枝の上にとまっているよりも奥行きが出ると考えたのではないでしょうか」

「人物花鳥図巻」は9月7日まで静岡県立美術館の「アニマルワールド 美術のなかのどうぶつたち」展で公開されている。

AERA  2014年9月1日号より抜粋