新大阪―東京間を「のぞみ」と同じ2時間半で走り抜け東京駅に入線した「ドクターイエロー」。念のためだが、走行ダイヤなどは公開されていない(撮影/写真部・工藤隆太郎)
新大阪―東京間を「のぞみ」と同じ2時間半で走り抜け東京駅に入線した「ドクターイエロー」。念のためだが、走行ダイヤなどは公開されていない(撮影/写真部・工藤隆太郎)

 幼児も女性もとりこにする、黄色い色のニクいやつ。人気と実力を兼ね備えた黄色いアイドル新幹線・ドクターイエローの内部に潜入した。

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 ドクターイエローの正式名称は「新幹線電気軌道総合試験車」。東海道・山陽新幹線区間の設備に異常がないか細かくチェックする「診察医」の役割を果たしている。

 ドクターイエローでは大きく分けて新幹線を動かす「電気」関係と、レールなどの「軌道・施設」関係を測定している。営業列車と同じ時速270キロ走行が可能で、実際に営業列車が走るレールを走って設備の状態を確認する。現在はT4(2001年デビュー、JR東海)とT5(05年デビュー、JR西日本)の2編成があり、数カ月ごとに交代、休んでいる編成は計器類のメンテナンスを行う。

 異常をチェックするといっても毎日走るわけではなく、10日に1回程度「のぞみ」と同じダイヤで、3カ月に1回(電気)、2カ月に1回(軌道)「こだま」と同じダイヤで走るのみだ。そのレア感が、人気を高めた理由なのかもしれない。1回につきいずれのダイヤでも東京-博多間を2日間かけて往復する。車両は東海道新幹線の700系をベースにしており、色以外にも、2号車と6号車には集電用と計測用の2本のパンタグラフがある、1号車と7号車には前方監視カメラがついているため、前照灯が通常より高いところにある、といった特徴がある。

 7両編成のドクターイエローに乗務員は全部で9人。運転士と車掌のほか、4人が電気関係、3人が軌道・施設関係をチェックしている。電気関係は1号車、軌道・施設関係は4号車に測定用の機器が集中している。

「高低マイナス…」

 列車速度と東京からの距離を十数秒ごとに告げるアナウンスが流れる4号車で、モニターをチェックしていたベテラン検測員の一人の目つきがふいに変わった。横の若手検測員にモニター上の数値を読み上げさせて手元のメモ用紙にそれを書き付け、携帯電話で連絡をとる。

 ここでチェックしているのは主にレール(軌道)の位置がずれていないかだ。床下に設置されている軌道検測装置が、主に高低(左右)、通り(左右)、平面性、水準、軌間の7項目について、25センチごとにチェックしている。その数値を映し出すモニターはリアルタイムのものと、前のデータを調べる検索用の二つがあり、基準値を超える値が出た時にダブルチェックできるようになっている。基準値を超える値はリアルタイムで総合指令所に伝送されるが、検測員も総合指令所に直接電話で連絡。同時に当該箇所を管理する現場にも連絡され、当日の夜のうちに補修が行われる。

 基準値に達しないような値であっても、レールのゆがみや乗り心地の状況によっては、次にドクターイエローが走るまでに補修を行う。ドクターイエローが1ミリ単位で正確な検測をしてくれることによって、正確な補修ができ、安全が守られているのだ。

「これだけ大量輸送を行っている高速鉄道はないですから」(JR東海担当者)

 鉄道発祥の地、イギリスからも毎年視察に来るという。

AERA  2014年8月25日号より抜粋