民間月面探査プロジェクト「ハクト」ispace代表取締役CEO 袴田武史さん探査車の2代目プロトタイプ/東京・恵比寿の本社(撮影/高井正彦)
民間月面探査プロジェクト「ハクト」
ispace代表取締役CEO 袴田武史さん

探査車の2代目プロトタイプ/東京・恵比寿の本社(撮影/高井正彦)
車体に取り付けられたプレートには、出資者名が記されている(撮影/高井正彦)
車体に取り付けられたプレートには、出資者名が記されている(撮影/高井正彦)

 星空を見上げ、夢を語る時代は終わった。宇宙は人類に残された数少ないフロンティア。ビジネスチャンスを求め、ベンチャー企業は地球を飛び立つ。

 月面に無人探査車(ローバー)を送り、500メートル以上走らせ、その動画と写真を地球に送信する。このミッションを最初に達成した民間チームには、賞金2千万ドルを贈呈します――。

 この宇宙を舞台にした国際レース「Google Lunar XPRIZE」(X賞)に、日本から唯一、名乗りを上げたチームがある。宇宙開発を手がけるベンチャー「ispace(アイスペース)」(東京・恵比寿)だ。代表取締役CEOの袴田武史(34)は言う。

「月面探査が成功すれば、そのローバーや技術を転用して、火星など惑星での資源開発にも使える。人類が存続するには、地球を離れ、宇宙で生存する選択を迫られるかもしれない。移住先で豊かな暮らしの基盤をつくり、“希望”を感じるためにも、こうしたロボット技術が役立つはずです」

 プロジェクトの名は、「ハクト(白兎)」。袴田を含め、アイスペースの常勤者は3人だが、エンジニア、コンサルタント、弁護士など、さまざまな職種の専門家らが、ボランティアで活動を支えている。ローバー開発を担うのは、東北大学大学院教授で、小惑星探査機「はやぶさ」の開発にも参加した吉田和哉だ。

 袴田と吉田は、2010年1月のイベントで出会った。外資系コンサルティング会社に勤めていた袴田が企画し、当時、吉田と共同でX賞レースに参加していた欧州のチームの開発資金集めが主な目的だった。東京大学の本郷キャンパスであったそのイベントには、航空・宇宙関連の研究者や技術者ら約100人が集まっていた。

 民間の技術と資金による宇宙開発の意義を語る吉田の言葉に、袴田の胸は熱くなった。もともと名古屋大学で航空宇宙工学を学び、米ジョージア工科大学大学院に留学経験があり、「40代くらいまでには宇宙開発に挑戦したい」という夢を持っていた。

 以来、週末ごとに吉田たちと月面探査の実現可能性を語り合い、10年9月には吉田が参加する欧州チームの日本における活動拠点を立ち上げた。その拠点となる会社が、アイスペースの前身。袴田はコンサル会社での勤務を週3日に減らし、週末も資金集めなどに奔走した。

 昨年5月、袴田は勤務先に辞表を出した。「これからは100%のエネルギーを宇宙開発に注ごう」と決めたのだ。同じ時期、欧州チームがプロジェクトから離脱。これを機に会社形態を合同会社から株式会社へ、社名をアイスペースに変更した。

AERA 2014年8月18日号より抜粋