四国こどもとおとなの医療センター子ども向けに手作りのおまけを用意したり、霊安室から続くバックヤードのアートを職員自身が描いたりと、患者を思いやる仕掛けであふれている(写真:四国こどもとおとなの医療センター提供)
四国こどもとおとなの医療センター
子ども向けに手作りのおまけを用意したり、霊安室から続くバックヤードのアートを職員自身が描いたりと、患者を思いやる仕掛けであふれている(写真:四国こどもとおとなの医療センター提供)
からくり時計(写真:四国こどもとおとなの医療センター提供)
からくり時計(写真:四国こどもとおとなの医療センター提供)
手作りのおまけ(撮影/編集部・吉岡秀子)
手作りのおまけ(撮影/編集部・吉岡秀子)

 医療技術の高さや手術数の多さはもちろんだが、治療に専念するには“心の安らぎ”が必要だ。患者にとって、本当にいい病院とは何か?見えてきたのは、サービスの多様化だった。

 公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会の田中豊章事務局長は、次のように話す。

「これから医療サービスのトレンドになるのは“癒やし”でしょう。心のケアができている病院は、患者からの信頼が厚くリピート率が高まります」

 そのトレンドは、医・薬学部大学が多く、病院間の競争が激しい西日本の方が顕著だそうだ。

「どの絵がいい?」

 筋ジストロフィーで長期入院している20代の男性患者に、さまざまな絵を見せているのは、四国こどもとおとなの医療センター・ホスピタルアートディレクターの森合音(あいね)さん。病室のアートを掛け替えるサービスを毎週行う。その最中、笑いが絶えない。

 わずかな顔の表情で、男性の意思を読み取った森さんが「じゃ、これを病室に飾ろう」と言うと、付き添いの母親も明るく笑った。病室で、絵を介して生まれる、おしゃべりの時間。

「治療以外の話ができるので、いい気分転換にもなるんです」

 母親はそう教えてくれた。ただ、森さんによると、院内のアートの企画から各種ポスターのデザイン、ボランティア運営と、医療行為以外の業務を仕切る「ディレクター」が常勤している病院は他にはまだ少ない。
 
 2009年から京都府立医科大学附属病院で、京都造形芸術大学の学生たちと壁画などによる院内環境の改善に取り組んできた「NPO法人アーツプロジェクト」の代表、森口ゆたかさんは、ホスピタルアート専門家の必要性をこう語る。

「さまざまな疾病を抱える患者さんの気持ちを損ねない配慮をしつつ、会話につながるような力のあるアートを作ることが求められるので、専門知識が重要です」

 気弱になっちゃ、病気と闘えない。患者の心に寄り添う人材が支えになる。特に、子どもたちの心をケアする「プロ」の出番は多い。

 例えば、大阪府立母子保健総合医療センターのように、子どもが前向きに治療に臨めるようサポートするホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)や、ピエロの格好をして病室を回り、一緒に遊んでストレスや不安を取り除く「クリニクラウン」といったサービスを実施している病院もある。

AERA 2014年8月18日号より抜粋