2015年からの相続税増税を前に、あれこれ節税対策に励む人は多い。都心部のタワーマンションの購入は、節税効果が高いことから、最近、特に注目されている。相続に詳しい1級ファイナンシャル・プランニング技能士の吉澤諭さんは、「1億円で買ったマンションの課税評価額が2千万円というケースも珍しくありません」と話す。

 そのカラクリは、マンションの課税評価方法にある。マンションの土地は、敷地全体の評価額×敷地権持分割合(各戸の床面積)で評価される。戸数が多い物件ほど、1戸当たりの土地面積が小さくなり、相続税の評価額が下がる。

 一方、建物の評価は固定資産税評価額が基準だ。同じ床面積なら階数が違っても評価額は大差ない。販売価格の高い高層階の物件のほうが、より評価額を圧縮できるため、タワーマンションを買う人が増えたのだ。

 ところが、首尾よく相続税対策をしたつもりが、大どんでん返しを食らうことがある。

 Aさんは、資産家だった父から約3億円のタワーマンションを相続した。相続税の申告をすると、マンションの評価額は5800万円で済んだ。だが、納税後に税務当局から連絡があり、マンション購入時の価格約3億円で申告し直すように求められたのである。

 相続税に詳しい税理士の吉田幸一さんは、こう説明する。

「通常、相続財産は財産評価基本通達に基づいて評価されますが、例外があります。通達のルールになじまない案件は、個別に評価することが、総則第6項で定められているのです」

 実は、Aさんの父は認知症で、マンションの購入手続きはAさんが代理人になっていた。父名義でマンションを購入した約2カ月後に、その父が他界。マンションを相続したAさんは、住んだり貸したりせず、約4カ月後にコンサルタントに売却を依頼している。その5カ月半後には買い手が見つかり、購入時とほぼ同額の約3億円で売却した。

「マンションの購入から、相続、売却までの期間が近接していることや、認知症を患う父親の判断能力の衰えを悪用した可能性があること。さらに自分でまったくマンションを使わなかったことなどから、租税回避行為とみなされたようです」(吉澤さん)

 このケースは決してひとごとではない。何をもって総則第6項の適用になるかは、法律で明文化されていないからだ。個別ケースごとに税務当局が判断するため、申告してみて「これはダメ」となることがある。

「Aさんのケースはグレーゾーンですが、違法ではありません。当局は、いくつかの疑わしい事実を根拠に、伝家の宝刀を抜いたのでしょう」(同)

AERA 2014年8月25日号より抜粋