●吉野家、都内で時給に差

 ランサーズで働く上野諒一さん(25)は昨年、北海道から上京した。大学院在学中にプログラミング技術を身に着けたが、北海道には生かす場が見つからなかった。いまは「移動時間がもったいない」と、会社から約2キロの場所に住んでいる。
「エンジニア同士の勉強会や、ベンチャーに入社した仲間とのランチなど、昼も夜も渋谷で過ごしています。おかげで、電車に乗る習慣がなくなりました」
 将来有望な産業が、徒歩圏内で成長する。こうした現象が進んでいくとどうなるのか。
 エンリコ・モレッティ著『年収は「住むところ」で決まる』(池村千秋訳、プレジデント社)の解説者、大阪大学経済学部の安田洋祐准教授は、その点について、こう指摘する。
「同じ職業であっても、住む場所によって給与は違います。一般的には、家賃などのコストが違うからと言われていますが、それだけではない。主要産業の違いも大きな要因なのです」
 つまり、ITのような付加価値の高い産業が発達した地域では、そうではない産業が中心の地域よりも、相対的に給与水準が高いというのだ。末尾の「給与と労働時間の格差」の表は、東京都を100とした場合の平均給与水準を、都道府県ごとに並べたものだが、なんとなくそうした傾向が見て取れるのではないか。
 同じ都内でも、給与水準の格差を見ることができる。吉野家の渋谷109前店の募集時給は、7月15日現在で1200円。一方、渋谷から電車で約40分の国分寺北口店は900円。実に1.3倍の違いがある。

●エンジニアを囲い込み

 転職サイトを運営するエン・ジャパンによると、IT産業従事者の平均年収は、この5年で約50万円上がった。需要に比べて、国内にいるエンジニアの絶対数が足りず、データ分析、ゲームやアプリの開発ができるエンジニアを、企業が年収を大幅に引き上げて引き留めようとしているという。
 イノベーションを起こす可能性を秘めたエンジニアを、あの手この手で囲い込む構図は、シリコンバレーと同じ。この地に本社を置く大手IT企業には、さまざまな種類のキーボードやマウスをそろえた自販機があり、エンジニアは自分に合うものを無料で選べる。エグゼクティブ層の転職を支援するビズリーチ(本社・渋谷)の新規事業担当、森山大朗さん(35)は言う。
「シリコンバレーのイノベーションは、エンジニアの創造性から生まれる。だから企業は、福利厚生を充実させるなどして引き抜きを防いでいます。現地のエンジニアの平均年収は1200万円、という話もある」
 渋谷の若者文化を支えた雑誌は、この1年で続々と休刊した。だが、15年前に生まれたITベンチャーのバトンは、81年生まれの「81世代」、リブセンスの村上太一さんなどの「86世代」へと、脈々と受け継がれている。
「え? 生まれ、昭和すか?」
 渋谷にITが再集結していると話す前出の大柴さんは最近、周囲の起業家から、そう言われるようになった。平成生まれが渋谷を席巻するとき、渋谷は若者の街から「金持ちの街」に変わっているのだろうか。

■給与と労働時間の格差
(東京=100) / 現金給与総額 / 総実労働時間
1  東京 / 100.0% / 100.0%
2  大阪 / 82.9% / 97.6%
3  愛知 / 80.8% / 98.9%
4  神奈川 / 80.8% / 93.9%
5  三重 / 76.5% / 100.0%
6  滋賀 / 76.4% / 99.3%
7  静岡 / 75.8% / 100.1%
8  栃木 / 75.0% / 101.1%
9  茨城 / 75.0% / 102.6%
10 岡山 / 74.5% / 103.8%
11 兵庫 / 73.9% / 96.4%
12 香川 / 73.5% / 104.2%
13 宮城 / 73.2% / 104.0%
14 山口 / 72.8% / 101.1%
15 福島 / 72.7% / 104.1%
16 広島 / 72.6% / 100.6%
17 群馬 / 72.5% / 102.3%
18 富山 / 72.4% / 102.3%
19 長野 / 72.2% / 101.6%
20 福岡 / 72.2% / 100.3%
21 徳島 / 72.0% / 102.1%
22 新潟 / 71.3% / 103.4%
23 千葉 / 71.2% / 94.6%
24 福井 / 70.8% / 102.4%
25 和歌山 / 70.0% / 98.4%
26 高知 / 69.8% / 100.2%
27 山梨 / 69.7% / 99.5%
28 石川 / 69.5% / 100.4%
29 埼玉 / 69.1% / 94.4%
30 京都 / 68.8% / 94.5%
31 本 / 67.8% / 103.8%
32 岐阜 / 67.6% / 97.8%
33 北海道 / 66.6% / 100.0%
34 愛媛 / 66.3% / 102.6%
35 島根 / 66.3% / 102.2%
36 岩手 / 66.0% / 107.0%
37 山形 / 65.2% / 106.5%
38 佐賀 / 65.2% / 103.9%
39 奈良 / 64.7% / 92.7%
40 鳥取 / 64.0% / 102.0%
41 大分 / 63.3% / 101.8%
42 長崎 / 63.2% / 102.5%
43 青森 / 62.3% / 104.5%
44 秋田 / 62.2% / 103.8%
45 鹿児島 / 61.3% / 102.4%
46 宮崎 / 60.8% / 101.8%
47 沖縄 / 59.8% / 102.2%

※厚生労働省「毎月勤労統計調査」(2012年年平均分、調査産業計、事業所規模5人以上)をもとに、アエラ作成

AERA  2014年7月28日号