「とにかく腹が立って。いま思えば、自分も働いている店にすごい不満があって、重ねちゃったのかもしれません」

 彼女は話の続きを聞くために、閉店後のカレー店に向かう。たった一人で大量の食器を洗い、厨房(ちゅうぼう)を片付け、清掃作業に追われる彼。手を休める暇もなく語り続ける内容は、さらに衝撃的だった。偽造パスポートに偽造ビザ、多額の金をむしり取るブローカー、そうまでして日本に来ざるを得ない彼の祖国の圧倒的な貧しさ……。

 とりわけ驚いたのは、年齢の「逆サバ読み」。20代前半の彼は、コックとしてビザを取るためには10年の経歴が必要だという理由で、30代のふりをしていた。え?年下だったの?

「なんか、価値観ひっくり返っちゃったんですよ。日本だと若いほうがいろいろと有利だし、30過ぎると仕事も恋愛も厳しいじゃないですか。それなのに10歳も多くサバ読むって、自分の住んでる世界と全然違うなって」

 何もかも打ち明ける彼に、信頼感を抱いたという。

「で、どうすればいいのかな、って。入籍して問題が解決するなら、それが早いじゃんって。結婚っていうより保証人になるような気持ちでした」

AERA 2014年7月14日号より抜粋