ビジネスマンなら一度は目にするであろう、経営者の名言。経営者の名言に励まされるビジネスパーソンは多いのではないか。その証拠に、出版不況と言われて久しいなかでも、“経営者の名言本”は根強い支持を得ている。

 八重洲ブックセンター本店(東京)のビジネス書売り場担当者によると、

「何年も前に出た経営者の名言集が新書判になったり、文庫判になったりと、形を変えて発行されることがよくある。それだけニーズがあって売れるんですよ」

 なぜ人は経営者の言葉にひかれるのか?江戸川大学メディアコミュニケーション学部の濱田逸郎教授は、こう分析する。

「国際化、デジタル化など、ビジネスの仕組みに大きな変化が起きている一方で、閉鎖的・官僚的な体質に悩む企業は少なくない。そうした悩めるビジネスパーソンにとって、世の中で結果を出したトップの言葉は“やればできる”という希望の言葉なのです」

 名言を発する経営者は創業者か中興の祖だ。新しい事業を始めるには方針を打ち出し、社員や消費者に理解してもらわなければならない。だから事あるごとに話す。繰り返し、語る。

 松下幸之助から直接薫陶を受け、リーダー論を説く江口克彦参議院議員は、著書『トップ一人(いちにん)の責任』(ぱる出版)で、「指導者が方針を明示しなければ組織は行き詰まる」と記している。

 進むべき方針が明確なら、課題にぶち当たるたびに方針と照らし合わせて、どうするべきかの判断ができる。その点、「松下幸之助と仕事をしていると、非常にやりやすかった」と振り返る。

 今も昔も、トップの出した方針に従い社員は動く。だから言葉を持たないリーダーは、その器じゃない。名言として後世に残ろうがそうでなかろうが、組織が活発に動くために「経営者の言葉」は必要なのだ。

AERA 2014年7月21日号より抜粋