森永卓郎さん東京都出身。東京大学卒業。経営企画庁や三和総研などで働き、経済評論家としてテレビや著作などで活躍。獨協大学教授(撮影/編集部・野嶋剛)
森永卓郎さん
東京都出身。東京大学卒業。経営企画庁や三和総研などで働き、経済評論家としてテレビや著作などで活躍。獨協大学教授(撮影/編集部・野嶋剛)

 少子高齢化社会の日本にとって、労働人口の減少は大きな問題。その対策のひとつとして「移民の受け入れ」が話題にのぼることがあるが、専門家からはこれに疑問を呈する声も。経済評論家の森永卓郎さんは次のように話す。

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 移民受け入れ派は、右派、構造改革派、弱肉強食、ネオコン、新自由主義者、いろいろ言い方はありますが、目指しているのは富国強兵です。労働力人口を確保し、経済のパイ、つまり国力を確保してグローバル経済で日本のプレゼンスを確保する。働かない若年層、女性、高齢者にもフル稼働して働けと。そして足りない部分に移民をあてるというのが安倍政権の労働・人口政策の全体の構図です。

 彼らにとって、国力の低下がいけない、それが一番の価値観です。移民受け入れ派と闘うと最後はそこに行き着くので、議論は平行線になっちゃう。彼らは、国民一人一人の幸福という発想がない。政治家には「成長」を唱えたい本能があるようです。安倍首相はその点を使命だと考え、一点の疑いもない。だから、議論にならないのです。

 ヨーロッパのように、一日も早く引退し、自由で豊かな老後を過ごし、金銭的欲求にとらわれず大自然のなかでぼうっとするのが幸せという考え方をなぜ選べないのか理解できない。日本人の価値観はとっくにそうなっています。 外国人を受け入れると、財政と社会保障の負担はとんでもなく増えます。メリットは雇った企業だけ。不足する労働力を補えて、安いコストで労働力を使えるからです。しかし、財政コストはかかります。外国人は失業しやすい。そうすると失業対策費がかかる。教育現場でも多様な外国語を使う子どもへの対応で多大なコストがかかる。

 それに異論もあるでしょうが、治安維持のコストもかかります。低賃金の労働者、失業者が増えると治安が悪化し、その対策で財政負担が増えます。日本は累進課税なので低所得の外国人はそれほど所得税や住民税は払わない。税収は少なく、支出は増えるので、結果的に財政は悪化するのです。ヨーロッパの人たちは、おれたちがこれだけ失敗して苦労したのになんで日本はその轍を踏むのか、お前らがやりたいならやればいいが、ひどい目にあうぞと心のなかで思っています。

AERA  2014年7月14日号より抜粋