一方、中国でも都市部で賃金が毎年10%近くも上昇し、日本との給与格差は縮まる一方。日本での実習のメリットは少ないとの評判が広がり、人材を探すのが年々困難になっている。


 そんななかで急激に増えているのがベトナム人だ。
 大阪市西淀川区の「新免鉄工所」は今年4月、ブイ・ヴァン・リンさん(23)とレイ・チャー・バオ・ユイさん(26)を受け入れた。新工場に本社から人を出し、その穴を埋めてもらう。
 同社にとっては初の外国人。社長の新免謙一さんは自らベトナムに足を運び、面接で選んだ2人の住居も探した。週末には神戸の中華街・南京町のベトナム料理店に連れていき、社の屋上では2人が好きな香味野菜を栽培するほどの気の使いようだ。
「礼儀正しいし、声も大きく、はきはきしていて、うちの若手にはないものを持っており、教わることも多い。(制限の)3年といわずもっといてほしい」
 2人も「日本の5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)など学ぶことばかり。最低でも5年はいたい」と口をそろえる。

●試験に落ちると帰国

 自民党は政府に対し、5年への延長を提言している。一方、実習制度自体には、職場の変更や柔軟な帰国ができないことから、国内外から「現代の奴隷制度」といった批判も絶えない。
「メラちゃ~ん、こっちに来てよ」「メラちゃん、元気?」
 千葉県袖ケ浦市の老健施設「カトレアンホーム」で働くインドネシア人のメラ・ジュリアさん(26)は入所者の人気者だ。
 南スマトラ出身。地元で看護師として救急病院で働いていたが、経済連携協定(EPA)の枠組みで11年に来日した。
「自分の発音が悪くて日本語が通じないと悔しい。でも、皆さんに受け入れてもらった感じがあると、幸せな気持ちになる」
 施設の近くに部屋を借りた。来年1月に控えた介護福祉士の国家資格試験のため、ベッドからの移動、入浴や食事の世話などの仕事をこなしながら、家に帰って勉強を続ける。
 インドネシアなどから、EPAの締結によって介護要員が招聘されている。メラさんのように、入所者や現場の評価は総じてかなり高い。ところが、日本人と同じ介護福祉士の国家資格の取得を義務づけているため、制度の有効活用ができているとは言いがたい。
 メラさんは、母国の学校や日本の研修センターで1年以上も勉強し、3年間の施設実習で国家試験に備えるが、試験に2度落ちると帰国させられる。困窮する介護現場の「助っ人」に来てくれる彼女らに、これほど負担をかける意味があるのか疑問だ。メラさんたちも30歳を過ぎれば結婚や帰国を考えるだろう。
 日本に外国人の労働者が本格的に現れたのは90年代以降。出入国管理法の改正で日系人の就労条件が緩和され、大型の工場がある地域が日系人であふれた。その半面、言葉や習慣の問題で生活や教育に支障を生む状況が広がった。

●母語だと安心できる

 医療もその一つ。千葉県佐倉市で、歯科医院を経営する古谷彰伸さん(50)は、7年ほど前に歯科助手を探していたとき、患者の日系ブラジル人女性の日本語がうまいことに驚き、「うちで働かない?」と声をかけた。口コミで「ポルトガル語が通じる歯科医院」との評判が広がり、関東一円から患者が訪れる。患者の2~3割は日系人だ。
 現在、医院で働く吉田ダニエレさん(29)は日系3世。近くの工場で働いていたが、古谷さんに医院でスカウトされた。
 診察室では普通にラテン系の言葉が飛び交う。ブラジル人だけではなく、ペルー、チリ、アルゼンチンなどの患者も多い。
「南米では歯科治療は保険適用がなく、治療費は固定額の前払い。患者さんには日本の保険制度との違いを説明します。母語でないとなかなかこういう話はできないので、安心してもらえるのでしょう」(ダニエレさん)

AERA  2014年7月14日号