●仕事は人生そのもの

 バリバリ働いていた3年前に、乳がんになった。会社を休んで手術をし、放射線治療にホルモン注射、抗がん剤治療。一時、働き方を緩めたが、そうも言っていられず、また元の多忙な生活に戻った。
 今は飲み薬だけになったが、治療の影響で汗をかく、ボーッとするなど、更年期と同じような症状が出る。「しんどい、疲れる」と思うのは毎日だ。しかし病気のせいにはしたくない。「病気も私の個性なの」と社内では正直に話している。
「30歳のときから毎月5万円ずつ15年間保険料を払って、60歳で1千万円になる貯蓄型の保険に入っています。あと2年でそれが掛け終わるので、そうしたら仕事を辞めて、大好きなバリ島で仕事を見つけて移住したいなとも思います」
 とはいえ、バリで仕事が見つかるかどうかも分からない。ホテルの社員の口はあるというが、あっても月に5万円程度の収入にしかならない。それで生活していけるのかどうか。
 そして数カ月に1回の乳がんの定期検診もある。鈴木さん自身は、玄米菜食で体を気遣っているが、がんが再発しないとも限らない。さらには、今は健康だが、年金暮らしの70代の両親の介護の問題も迫っている。心配は尽きず、バリ行きも思案に暮れている。
「年を取ると、もっとお金持ちになって楽になり、何か良くなるものだと思っていたのですが、年々悩みは尽きないんだと分かりました。10年後ですか? 10年前も、結婚していたことを除けば何ひとつ変わっていません。だから、いつまで働けばいいの、と思いながら、同じように働いているのではないでしょうか(笑)」
 彼女たちに共通するのは働くことはけっして嫌ではないということ。ただ働き始めて二十余年。環境や働き方、健康面の状況も大きく変化した。少し休んで、行く末を考えてみる時期に入ったのかもしれない。
 それでも「夫も子どももいない私にとって、働くことは人生そのものです」(鈴木さん)
 その言葉が心に響いた。

AERA  2014年6月23日号